第42話

「お前は死ぬ目に遭っても、俺と一緒に居たいのか?」


「え?」

妻の当惑した顔に、茫然としながら伊佐木。

「もうだめだ、俺の思考も読まれてる!」

そう言って頭を抱える伊佐木。


「もうだめだ。白状する。実は俺は命を狙われている」


「え?」

「お前ら家族と一緒に居て。巻き込みたくなかった!だから離婚しようとした」

そこまで言うと、両手を床につけて、苦悶の伊佐木。


「敵は思考盗聴も出来るんだ。もうだめだ、もうだめだ、みんな殺される」


叫ぶ伊佐木。言葉を続ける。

「出会い系マニュアル師の本を出そうとしたんだ。そいつがくずで処女を捨てさせた上に、日野咲はなを捨てたんだ」

「ひのさきはな?」


「そいつをはなが殺害していたんだ、衛星か脳内ハッキングで。そいつの本を出そうとしたから、それで俺らは殺されることになった。松澤大樹とも会った。もう助かるすべがないんだ」

そう叫ぶ伊佐木。


伊佐木とは対照的に妻。まだ現実の怖さを知らないためか落ち着いている。

「あなた、あなた、あなたそれ、ひょっとして本を出すのをやめたらいいんじゃないの?出会い系マニュアル師が嫌いなんでしょう?そのはなって子は。あなたそもそも関係ないんじゃない?」


と妻。もっともだ。もっともだ伊佐木は驚いた顔で妻を見やる。


「どうやって殺しているのか分からないけれど、それで助かるんじゃない?みんな」


「あ」


「お父さん。お父さん」

二人が絶望の中話し合っている時に、娘のさつきが部屋に飛び込んできた。


「人類愛人類愛勇気だって!」

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