第26話

松澤大樹は弱った顔をする。

「まぁ、ストレートに話そう。統合失調症の患者さんにはストーカーが張り付いていることがある。君が先ほど言った、電磁波ガン、殺人衛星、脳内ハッキングのいずれかで攻撃している。通常は、脳に4か所の亀裂が走るんだが」


松澤大樹は色眼鏡を右手でいじり言う。


「ストーカーの監視下にいるケースは脳に穴が開いていなくても、攻撃を受け続け、幻聴や幻覚を見るケースもある。それを防ぐためには、ストーカーをあきれさせ去らせなければならないのだが、そのために、私は、患者さんに、毎日20kmマラソンを推奨している」


松澤大樹は語る。

「伊佐木君、君は脳に穴が開いていないので、軽度だよ。最悪ストーカーは今、我々の会話も脳内盗聴している。君の涙にほだされ、わしも今、窮地に立たされているんだが」


「え?」


「わしが、普段、このストーカーについて一切語らないのは、わしの身を守るためだが、伊佐木君。君やってくれたわ。わしの命もやばくなってきた」


松澤の言葉にはっとする伊佐木。

「あ」


ため息をつく松澤大樹。


「はーまぁいい、患者を救うのが、医師の使命だから。まぁ、本望と言えば、本望か。ただ、わしが生きていれば、まだまだ救える命があったというのに。男の割に泣くからなぁ!ははは」


土下座のあとを引き、床に座ったままの、伊佐木。


「す、すみません」

心底反省している。そうして、涙もちょちょぎれたままだ。


「泣くな、伊佐木君。泣きたいのはわしだ」


伊佐木は松澤大樹を見上げる。松澤大樹は天井を見上げ話す。


「攻撃者の資金が尽きれば、攻撃をかわせるようになるかもしれない。一昔前までは、殺戮衛星だったから、資金がかなりかかって、攻撃の期間がすごく短かったんだが、最近では、脳内ハッキングが出回っているから、ただ同然で、脳攻撃を出来るようになっている。この状況から、患者をどう救うかが、わしの英知の見せどころか?」


松澤大樹の話に耳を傾けていた伊佐木が口を開く。


「助かるすべはあるんですか?」

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