第70話

裕也はようやく一志のアパートにまでたどり着き、自転車を道路脇に止めると、チャイムを鳴らし始める。いつになくせっかちなチャイム。しかし何度鳴らしても、なかなか出てくる気配がない。

「たびたび済みません! あけてください!」

とうとう痺れを切らした裕也は、叫びながら玄関のドアをガンガンたたきまくる。

「あけてください!」

まだ寝ぼけ眼で現れる静江。顔はすっぴんのまま、だらしなくパジャマを着込み、頭には毎度よろしく巨大なカーラーをいくつも巻きつけている。

「なぁに、あたし朝はほんと弱いんだけど、ふぁぁあ!」

裕也は大胆にも静江の存在を無視し、靴を脱ぎ捨て、とっととアパートに上がりこむ。そうしてリビングまでたどり着くと、コルクボードに貼り付けられたメモをあさり始める。

『強制的におふくろに書かされてるっていうか。頼まれてもすーぐ忘れちゃうっていうか。でも、こうやって紙に書いて貼るようになって、とりあえず度忘れはなくなったね』

再び脳裏に過ぎる一志の言葉。

「どこだー、どこにあるんだーー!」

焦りからか思わず声がもれ出る裕也。ボードのメモの一つ一つを凝視して、必死に目的のメモ用紙を探し出そうとする。


*****


一方一志。響き続ける罵声と殴打音、それすらも遠く感じる。朦朧とする意識の中、一志は思う。

(俺、ちょっとミスったかも…イヤ、かなり‥か…けど脱退の儀式ってことは、抜けれるのか…オレ?)

ムキになり自らを殴り散らす、宇野田の顔が見える。

(ってぇ、死ぬほどいってぇ…俺、生きて帰れんのかな? ははは、死んじゃったりして)

相変わらず細めた目でタバコをふかす鷹山。その脇に立つ参謀のアツシ。

(裕也の奴、俺が死んだら泣くんだろうな。あいつ弱っちいもんな…)

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