第一章「最低の三乗」1-1.裕也の日常

第2話

「った」

校内のトイレでフイにどつかれブルーの壁タイルに右肩を激しくぶつける少年。辺りに人けは見当たらない。両目を軽く覆うほどの前髪黒髪、既製の詰め襟学生服をそのまままとうおとなしめの風体の少年。長谷川裕也、十六歳。裕也にはあまりに見慣れた光景―日常――

「お前、せんこーにチクったろ! 俺らにイジメられてるって」

黄色いTシャツで学ランを着崩し、赤めの茶髪をワックスで逆立てた須藤がガンくれながら裕也の胸倉をつかむも、再びトイレの壁にどつき当てる。

「った」

「なにチクってんだよ!」

痛みで眉間にシワを寄せる裕也に須藤がいらだった様子で吐き捨て、裕也の膝を蹴り上げる。

「内申に響くだろーが!」

そう怒鳴り散らすと須藤がこぶしで裕也の右腕を殴る。脇で見ていた山下が右耳のピアスリングをいじりながら、おちょくるように言う。

「お前が内申気にするタマか? だったらまずその頭をどーにかしろって話、わらける」

やはり制服を着崩し、だらしなく上履きの後ろをスリッパのよう履き潰している。

「うっせー黙れよ! 自分で内申落とすのは構わねぇけど、他人に足ひっぱられんのは我慢なんねーんだよ!」

わき見で須藤が山下の横槍を切り捨てる。




「ち、なんだよ」

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