第16話

「出掛けるとき、近所のオバさんに冷やかされるわ」




「見せつけてやれ」




清貴は握りしめた早苗の手の甲にキスをした。




「カートを押しながら、またデパートを駆け回る事になるかもよ」




「スリリングでいいさ。…たまにはね」




今度は、早苗の頬にキスをする。




「ウエディングドレスは着れないわよ。服を着替えることも出来ないから」




「披露宴には抱きかかえて登場してやるよ。よっ!」




「きゃぁ」




清貴はいきなり、早苗を抱きかかえるとベッドルームに向かった。二人でベッドに寝ころんで会話を続ける。




「一生セックスできないかもよ」




「うーん」




やや考えた様に言葉を濁した清貴だったが、再び言葉を続ける。




「新しい体位でも研究するよ。なーんてね、いいんじゃない。それもまた、夫婦の愛の形だ」




「プラトニックラブ?」




早苗が笑う。




「そう、プラトニックラブだ…」




清貴の唇が早苗の唇に近づいて行く。




早苗は瞳を閉じた。と、二人の唇がまさに出会おうとした、その瞬間だった。清貴がやおら歓声をあげる。ワケが分からずにキョトンとしている早苗の肩を掴むと、はちきれんばかりの笑顔で叫んだ。




「見ろよ! ほら!」




清貴は早苗の目の前に、自由になった手のひらを広げて見せた。

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