一章:別れ話は唐突に

第1話

「どういうことだよ…これ」




突き返された部屋のキーを目の前にして、清貴はかなり狼狽していた。




「別れましょ。私たち、もう無理だわ」




冷たい口調で言い放ち、早苗が席を立とうとする。




「ちょ、ちょっと待ってくれ、何がなんだか」




頭を押さえる清貴を背に早苗はさっさと部屋を出ていこうとする。




(は、早く引き留めないと)





冷たく怒った早苗の背中が、大きな見えない壁を感じさせる。清貴の頭は真っ白だった。ただ、彼女を何とか引き留めようと、ただ、そのことだけを強く念じていた。




「待ってくれ。話合おう」




「イヤよ! 放して」




清貴の腕を必死にふりほどこうとする早苗。




「いや、放さない。君が理由を話してくれるまで…いや、話したって、そんな事納得できないからな」




「だって!」




振り返った早苗の目は、涙で濡れていた。




「だって、あなたはいつもデートの度にすっぽかして。折角作った料理も無駄にして。全然、私の事なんて見てくれないじゃない!」




「だから、それは仕事で!」




早苗が清貴の顔をのぞき込むようにして言う。




「私と仕事…どっちが大事?」




究極の選択である。世のお嬢さん方は男性にこんな質問をしてはイケマセンよ。




「そ、それは…」




清貴が言葉に窮していると、早苗はさげすんだ目をして彼を睨んだ。

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