第5話

「ほんじゃま、商談決裂ということで、帰っていいっすか?」




と、席を立とうとする信也。




目の前のオホモな野郎の思いを断念させるため、わざとスッパリ、キツめに切り捨てる。




そこをすかさず、白い腕を伸ばし、信也の右腕をはっしとつかむ少年。そうして信也を見上げ、一言。




「何もしないから!」




ぞぞーーーーー!




その言葉に、ますます背筋の凍る信也。




(何もしないって、その言い草って、なんかおかしくないか?)




と思う。




そうして、間髪おかずに言い放つ。むろん、男の操を守るためだ。




「いやー、悪いけど、オレは女専門だから。ほんっと、ごめんなさい。キミが女の子ならオレも喜んでって感じだったんだけど。キミは男の子だしね、ね!」




信也の言葉に、どこか悲しげな少年の顔。眉間に小さくシワを刻む。そうして、しばし黙りこくりうつむく。




ひとたび飲み干されたアイスティーの氷が溶けかけ、グラスの中の紅茶色がほのかに薄まっている。透明感のあるグラスの中のグラデ。




しかし、どんだけ悲しそうな顔をされようと、さすがに男は受け入れられないわけで。少年の動向に欠片も心動かされることなく、己の操を守る為、いかにとんずらこくかに思考をめぐらす信也。




そんな信也をよそに、やがて小さくつぶやく少年。




「女の子じゃないけど、それに近いものなら……」

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