第42話

だけど、何度打っても思うような書き出しが書けない。だだ無駄に部屋の中でひたすら響くタイプ音。




そうしてようやくメールの冒頭文を取り繕い、やがてそれなりの長文が仕上がってきたかと思うも、僕はたまらず、メールが書きあがる寸前に全てを一斉に消去してしまった。そうして、うつむく。




(どれもこれもサマになんないや。何もかもが言い訳じみていて)




テレビ画面を振り返る、ふいに視界によぎるめぐりんの笑顔。めぐりんはすっかりバラエティに溶け込んでいる。めぐりんの笑い声が可愛く響く。今更虫が良すぎるよ。あの一番信じてあげるべき、あの瞬間。僕は他の誰よりも彼女を疑った。




(僕はファンとしちゃ、まだまだ全然ダメだな……)




彼女は僕の最後通達のメールをどんな気持ちで受け取っただろう? 彼女を想い、僕はスクラップ帳からブルーのメールアドレスをめくり出す。そうして、そっくりページごと破り取った。そうして、そいつをビリビリに破きはじめる。




途中で気が変わってパズルみたいに組みなおして、セロテープで貼っつけるなんてことができぬよう。丹念に細かく細かく破り、そうして、机の上のそれを掻き集め、窓の外から両手でひとまとめにばらまいた。風に飛ばされ、ちりぢりに舞う細かな紙ふぶき。




窓の外、遠く通りの向こうたたずむ親子連れのうちの子供が騒ぐ声がする。




「雪? ママ、雪が降ってる。ほら、あそこ! 夏なのに雪だよ」




指差し叫ぶ。




「そんなわけないでしょう?」




「あれ? 変だなぁ? さっき降ってたと思ったのに。もう降ってないや」




怪訝そうな子供の声。手を引く母。




「バカなこと言ってないで、ほら行くわよ」




例のゲリラライブは完全に頓挫したけど、あの当時話していた新曲が九月にリリースされた。写真集も買った。読む用と、保存用の二冊だ。来年のカレンダーも先行予約した。当然二冊。




めぐりんは不滅だ。そうして僕のめぐりんのファンサイトも不滅だろう。だけど、めぐりんと僕、二人の一瞬交差したラインは再びただの平行線に戻ってしまった。かくして僕のドリームズ・デイズは終わりを告げる。




(完)

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