第19話
桜のフォトメールから1ヶ月。―5月。僕は途方にくれる。CDショップのレジ前。痴呆顔で棒立ちする僕。めぐりんの教えてくれたアルバムは予定通り発売されなかった。写真集も。ファンクラブでの情報にもゼンゼン話題が出てこないし。ちょっと変かな? と思っていた。だけど、まさか――
そんなハズはないと、何度も詰め寄る僕に店員は、かなり閉口気味。だけど、僕は食い下がらずには居られない。やがてうなだれ、ショップをあとにする。めまいがする。どこをどう歩いて帰ったのかまるで分からない。
だけど、自宅に戻り、僕はまたも途方にくれる。パソコンに向かえば、ディスプレイの中僕のサイトで巻き起こるブーイングの嵐。僕のサイト初の、ガセネタ。嘘っぱち情報。タイプミスなんて非じゃない。一部やけに大げさに大騒ぎするユーザーをなだめる常連たち。僕のサイトの唯一のインタラクティブな場所、掲示板は騒然とする。
騒ぎに乗じて、どうでもいい嵐が、どうでもいい連続投稿を繰り返す。まさしく、これが俗に言うサイトの炎上。ファイヤー! 苦情に罵詈雑言のフレームの嵐でぼーぼー燃え上がるサイト。みるみる炎が燃え盛る。常連が消火投稿をする。焼け石に水。
サイトは未だかつて見ない最高潮の盛り上がり。掲示板の投稿数はアホのように跳ね上がる。だけど、なんてろくでもない盛り上がり方だ。僕の守り続けてきた、めぐりんのファン同士のおだやかな憩い空間、そのすべては今やぶっ壊れてしまった。
なんて、どんちゃんなお祭り騒ぎ。それはそれで大問題なのだろうが、僕はそれをどこか人事のように見下ろしていた。うつろに。僕の心はそれどころではなかった。突如、坂口の言葉が脳裏をよぎる。
〈自称ってさー。胡散臭さ100倍って感じじゃねー? オレだってネットの匿名通せばキムタクにだってなれるぜ。そんなの100%嘘に決まってんじゃん!〉
〈あのさー、まさか、それ真に受けてるわけじゃないよね? お前、それ絶対かつがれてるって。芸能人もそんな暇じゃねーだろー? それに今や天下のめぐりんだぜ、一芸能人が一般人のお前とメール交換なんてしてくれるわけないじゃん! ありえないでしょ?〉
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