第24話
男はうつむいたまま、眉間にシワをよせ、ぽつりつぶやく。
「笑えないよ」
そうして男は顔をあげる。冴子を見る。
「君がいるからさ。君が僕の前から消えてくれない限り、僕は笑えない」
男は叫ぶ。
「僕は一人の人生で充分満足してたんだ。充分幸せだった。それを、君は突然僕の元にあらわれ、その偽善的な使命感から、僕の生活にズカズカ入り込んできて、好き勝手にひっかきまわし、めちゃくちゃにした。
その五体満足な体を僕に見せつけ、そうして君は笑う。君はそれで満足か? 君は最低だよ。無神経だ。偽善の仮面をかぶった、エゴイストだ。僕が君のその自由に動く両手と両足をみて、何も思わなかったとでも? いいよね? 君は、僕と違って、器用だ」
冴子は目を見開く。男はおぼつかない手で空をつかむ。
「僕の手は自由にモノをつかめない。僕の足はまっすぐ歩くことすらままならない」
冴子は男を食い入るように見つめる。涙を流しながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます