第24話

男はうつむいたまま、眉間にシワをよせ、ぽつりつぶやく。




「笑えないよ」




そうして男は顔をあげる。冴子を見る。




「君がいるからさ。君が僕の前から消えてくれない限り、僕は笑えない」




男は叫ぶ。




「僕は一人の人生で充分満足してたんだ。充分幸せだった。それを、君は突然僕の元にあらわれ、その偽善的な使命感から、僕の生活にズカズカ入り込んできて、好き勝手にひっかきまわし、めちゃくちゃにした。




その五体満足な体を僕に見せつけ、そうして君は笑う。君はそれで満足か? 君は最低だよ。無神経だ。偽善の仮面をかぶった、エゴイストだ。僕が君のその自由に動く両手と両足をみて、何も思わなかったとでも? いいよね? 君は、僕と違って、器用だ」




冴子は目を見開く。男はおぼつかない手で空をつかむ。




「僕の手は自由にモノをつかめない。僕の足はまっすぐ歩くことすらままならない」




冴子は男を食い入るように見つめる。涙を流しながら。

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