第20話

電話は通じない。冴子は携帯を畳む。次の日男のアパートで冴子が肩で男の肩をこづきながらすねた声をだす。




「昨日は電話かけたけど出なかった」




「ああ、ごめん、仕事で疲れて寝てたから」




とそっけない男。そうして言葉を続ける。




「君は、今日は何か用事はないの?」




「用事?」




いい加減、冴子も男の様子がおかしいのに気づき始める。




「いつも用事は? ってなんだか、私を早く帰らせたいみたいね。でも、おあいにく様。今日はなんの用事もありません」




冴子は男の胸に手を置き言う。




「ねぇ、なんかあなた最近変よ。気のせいかもしれない、気のせいかもしれないけど、だけどやっぱり、私避けられているような気がする」




冴子の声のトーンが少しあがる。




「いつも、曇った顔をしているし、どうして? 私何かした? 私を嫌いになった? 他に誰か好きな人ができた?」




男を不安げに見つめる冴子。しかし、すぐひらめく。




「あ! お見合いか。この間お見合いの話なんて、私がしたから。安心して、お見合いなんて絶対しないから。私が好きなのはあなただけだから。結婚するなら、絶対あなた意外に考えられないから」




真っ直ぐな瞳で冴子は言う。そうして笑う。




「あ、ってかこれってプロポーズになっちゃうのかしら? 冴子からの逆プロポーズ」




舌を出して笑う。




その冴子の笑顔を見て、男の顔は曇る。

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