第75話

side 裕貴



咲美愛が帰ってきた。1週間に

3回くらい帰ってきているのは

知っていたけど、なんとなく

会いたくなくて。


咲美愛がくると他の部屋へ

逃げてしまうんだ。



今日もまた他の部屋へ逃げる。



リビングから声がきこえる。



『私は美しいお姫様なの。

どこかへ行きたいな』


『お姫様なんだよ?』


『私は美しいお姫様なの

どこかへ連れて行ってほしいな』



咲美愛の声が聞こえる。


ちがう、咲美愛なのか?



お姫様?なにがあったというんだ?

どうしたというんだ??


咲美愛、そっちで何かあったのか?



思わず、部屋を出る。



『えみな?』


『ねぇ、どこかへ連れて行ってよ』



おかしい。おかしい。なにが

おかしいって全部がおかしい。


どうしたというんだ。



この日からずっと咲美愛は

お姫様になった。



本当の意味にきづかなかった。


笑顔の裏に隠された本当の真実に

俺は気づくことができなかった。



真実に気づいたのは10年後だった。

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