第58話

side 裕貴



『ただいま』


拓望が帰ってきた。もう家を

出てから3時間はたっている。


時刻は夜の8時をまわっていた。



拓望の隣に咲美愛がいない。

拓望の表情も暗い。



思わず、聞いた。



『咲美愛は?一緒じゃないのか?』



『おばあちゃんのところにいくって。

父さんのこと大嫌いっていってた。

ついでに、俺も嫌いって言われた』


『咲美、泣いてたよ。はじめて見た。

空を見上げて泣いてた。』



『父さん、何を言ったの?』



拓望にきかれる。勉強、勉強なんて

いったら怒るに違いない。



『勉強しろって。勉強に恋愛は

いらないって言った』



『咲美が大切なのは俺も同じ。

咲美は頑張ってたよ?父さんに

認めてもらえるように頑張ってた』



わかっていた。俺もわかっていた。



母さん譲りの努力者。その姿は

母さんを見ているみたいで。


咲美を通して母さんをみていた

こともあった。違うのに。



頑張る娘を認めてあげることが

できなかった。


これ以上頑張る必要はなにも

なかったのに。


本当に些細なことだった。

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