第38話

ーーーーー1993年4月4日ーーーーー


まさかの、まさかだ。

どうしたらいい。


取り返しがつかない。


母さんが赤ちゃんを、産んで

亡くなった。


俺に赤ちゃんを、託して。



覚悟を決めてる、なんて

カッコつけたけどこないだまで

俺は反対してたんだ。


時間よ、とまれ。とめてくれ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーー1994年4月7日ーーーーーー


通夜、葬式がおわった。


みんな誰も口を開かない。

みんなわかっている。


みんな後悔している。


こんなにも望まれていなかった

赤ちゃんどうするって。


とにかく赤ちゃんに知られては

いけないとみんな胸に留める。


知った時、絶対に傷つく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーー1993年4月8日ーーーーーー


のんに告げた。泣いていた。

俺だってまだ信じられない。


赤ちゃんの性別そういえば

聞いてなかったと思って

NICUに行った。


そこは別世界。小さな赤ちゃんが

必死に生きようとしていた。



お母さんのミルク飲む子

沐浴している子


涙が溢れた。赤ちゃんは

それはもうできないんだって

気づいてしまったんだ。



赤ちゃんは女の子だった。


色んな機械をつけて必死に

いきていた。指をギュッと

にぎってくれた。


まるで、私は生きているよ

って言っているみたいで。



咲美愛、君は桜の蕾みたいだ。


蕾を咲かせてね。そんな願いを

こめて咲美愛と名付けます。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー



(私は最後のほうまで望まれてなかった)


(謝罪をこめて育ててるの?)


(もういいや。自分ってなんだろ)

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