第5話

総合病院を経営する長嶺家に両親がいる事は

ほとんどない。

いるのは週5で通いのお手伝いさんだけで、

夕方前には帰っていく。




詩楽うたと一緒に詩楽の家へ帰り、先にリビングの ソファに座っていたら紅茶のいい香りと一緒に 詩楽が入ってきた。



「どこも平気?」


「うん、心配ないよ。」


「次、あんな事したら許さないから、

笑菜に何かあったら… 耐えられない。」


「うん、ごめん。

でも私より桜都おとの方を、…」


「笑菜、」



痛いほどの視線に目をそらすことが出来ず、その先の言葉を飲み込むと詩楽との間に緊張した静けさが流れた。



「あ、あの… 紅茶ありがとう、飲むね…」


「うん。」



熱っぽい表情を向けられると、どうしていいか分からなくて、つい誤魔化してしまう。

それを受け入れてしまうのが、詩楽との関係性が変わるのが怖かった。



私はこのまま曖昧でいたかったから。



詩楽は、そんな心のうちを見透かすように顔を曇らせ苦笑いを浮かべると、いつものようにピアノへ向かった。

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