第79話

「心拍が弱かったのは、梨絵子よね。」


「うん。梨沙は、元気に動いてた。」


「……減らしておけば……こんな辛い思いしなくて、済んだかなあ…」


「そんなこと、言うなよ。

梨沙子も梨絵子も、俺たちの娘だろ?」


「1人だったら、病気にならなかったかもしれないじゃない!

アナタも…梨沙のほうが、素直で…可愛らしい娘だって思っているじゃない!」




愛されていた。


望まれて生まれてきた子は、

お姉ちゃんだった。



私は、中絶予定の命だった。


生まれる予定がない、命だから………



愛されないんだ。突き放されたんだ。



大切ではないから、要らないから……



私を、大切に扱ってくれたのは…

史哉くんと優哉くんしか、居ない。



結局、親にも……兄にも………


要らない存在だったのだと、

改めて……思ったんだ。




病室から、出ていく貴也兄を見送って



愛生を、流産した日から

手放すことができなかった

カッターナイフを手に取る。




ごめん、ごめんなさい………



私が、ママでごめんなさい……。

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