第45話

「ふっ、ううっ………行かなきゃ……」



時間は、守らないと……。


そう思って、必死に涙を止め……

震える足を、踏ん張り歩き出す。



いつか、妊娠して良かった……


生まれてくることはできなかったけど、

良かった…と思える日が来る事を、祈った。



「…………史哉くん……どうして……」


「いつもと、違うなって。

梨絵ちゃんは、嘘をつきたい時。

本音を押し殺すとき。

俺の目をみないんだよ?目逸らすの。」


「………………。」


「幼なじみだもん。気付いた。

梨絵ちゃん一人で抱えさせてごめん。

辛い思いさせてごめん。」



腰に、回された手が、

史哉くんの手が、震えていた。


声も、震えていた。



「……………ごめん、なさい……

心拍………心拍………。」


「うん。うん。辛かったね。」


「ウッ………史哉くんッッ……ごめ……

ごめんなさいッッ………ごめん………『梨絵ちゃん。大好きだよ。』」



久々に聞いた、" 大好き "



あ、違うか………。


再会したあの時―――……。



「梨絵ちゃん、愛してる。」



史哉くんは、言ってくれた。


聞かないフリをしたけど、

史哉くんは、言ってくれていた。



信じられなかったのは、わたし。

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