死神のまにまに

ちぇいさー

第1話 出会い

 朝起きて、支度を済ませ、学校に行く。


 そんな事の繰り返しに俺はうんざりしていた。


 いつから死にたいと思うようになったのか、そんなことはもう覚えていない。


 そんな憂鬱な日々も今日で終わりだ。


 俺は落下防止の鉄柵に肘をつきながら


「今日で……今日で全て終わらせる」


 口の中でそう呟いた。


「ありゃ? 誰かいる?」


 不意に女性の声が聞こえた。


 俺は素早く振り返る。


 だがそこには誰もいない。


「穴場だと思ったんだけどなぁ、ここ」


 いつに間にか背中に張り付くように立っていた。


 驚いた俺は声も出せずに距離をとる。


「おいおい、そんなに驚くことないだろ」


 優しく微笑みながら女性は距離を縮める。


 女性はゆっくりと歩きながら


「君、こんな時間にビルの屋上でナニする気だったんだい?」


 戸惑いながらも俺は


「別に何も……」


 警戒しながら言い放った。


 少しの沈黙の後、女性が口を開いた。


夜光やこう真実まこと。歳は十四、自殺願望アリ」


何故俺の名前を知っているのか。


 変な汗が噴き出てくる。


「えっと……知り合いでしたっけ?」


 俺の問いに女性は


「いんや? 初めましてだな」


 意味が分からない。


 呼吸が乱れているのが自分でもわかる。


「だいたい……貴女も何しに来たんですか?」


 女性は少し考えた後


「私は死神だ。君に死ぬ価値があるのか視察に来た」


 深くかぶっていた漆黒のフードを脱ぎながらそう言った。


 月明かりに照らされるその目は紅く、見惚れるほど綺麗に染まっていた。


「死神って……そんなこと言われて信じると思います?」


 俺の言葉に自称死神の女性は


「見せてあげるよ」


 全身を包む漆黒のマントを脱ぎ、投げ捨てる。


 マントの下には半袖と短パンを着ているので、綺麗な白い肌が露出する。


 だが、そんな事は気にならない程に異様な光景が目に飛び込んでくる。


 刃物だ。


 正確には携帯式の鎌が腰のベルトにさしてある。


 女性は鎌を組み立てながら


「これね、魂を刈り取るやつなんだ」


 俺は何も言えない。


 鎌が完成したようだ。


 女性は鎌を思い切り振った。


 すると空気を切り裂く音と共にネズミの鳴き声が聞こえた。


 ネズミはもう死んでいる。


「あ、え? ホントに死神……?」


 死神の女性は黙ってうなずく。


「『死ぬ価値があるのか視察に来た』っていいましたよね?」


 死神は黙って話を聞く。


「俺を……殺してください」

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