日々、2週間目

 この生活が始まり2週間。倫太郎には気掛かりがあった。

 自分の清潔感のない外見である。元々短くはなかった髪は視界を邪魔し、横に分けても屈むと落ちてくる。ヒゲも気になり始めた。そのヒゲをじょりじょり、と触りながらアイハはこれもかっこいいわよと笑うが、外に出ることを意識すると気になるものだ。


「私のゴム、一つ使いますか」


 レノミアが起きてきて自分の髪を解く。低めの位置でのハーフアップツインの髪を首元で一つにまとめ直して、余ったヘアゴムで倫太郎の髪を前髪からまとめ上げ、ハーフアップの形で結んでくれる。まだまとめるには短いのでところどころの髪がはみ出しているが、ヒゲにも似合ってるよと褒められるとなんだか照れ臭かった。


 また1週間分の収穫物を換金し、先週と同じ要領で外へ出る。頼まれていたソーイングセットと、アイハにも畑を耕す仕事を任せるべく新品のクワを追加で購入してから、無料の段ボールを多めにもらって帰ると、今まではキの実の苗ガラを敷いて作っていた寝床をきれいに作り直すことにした。妊婦であるレノミアが少しでも快適に眠れるよう、段ボールを重ねる。


「何かふかふかしたものがあればいいんだけどね。藁とか……」

「山の方に熊笹が生えていたが……」

「行ってみよ」

「あ、それでしたら……」


 アイハと二人で、川沿いに山を登る。雑木林には見立て通り熊笹がわんさかと生えている。アイハにそれを集めるのを頼み、倫太郎はレノミアに頼まれた樹皮を見繕う。柔らかく弾力のあるものが良いだろうと探しているとちょうど良さげな木を見つけ、クワを使って木の皮をはいでみる。最初は長くきれいに剥くのに苦労したが、慣れてくるとするすると長細い樹皮を採取できるようになってきた。結構楽しいぞ、なんて言っているとアイハもやってみたいと言うのでやらせてみる。


「クワ、重〜い!耕すのとは違うわね」

「そりゃあ上向けているからな。ほら」


 倫太郎が後ろから支えるように持つ。アイハは嬉しそうに腰をくねらせた。


「やだぁ、なんかバックみたい」

「…変なことを言うなよ」

「だってぇ……ねえ倫太郎?あたし、しばらくは妊娠できないんでしょ?」


 アイハは上目遣いで倫太郎を見上げる。困ったな、と頭を掻いて、倫太郎はそのまま水辺へと彼女を連れていくのだった……。



***



「お楽しみでしたか?」


 洞窟で一人待たされていたレノミアは当然膨れっ面だ。


「待たせて悪かったよ……」

「せめて先に素材を届けてくださっていたらよかったのに。庇は完成しましたよ」


 待っている間に、彼女は以前から作り始めていた洞窟の玄関にかける庇を完成させてしまったようだ。謝るしかないので倫太郎はこうべを垂れたまま、三人でそれを支え合いながら設置する。


「いい感じ!」

「少しだけ家らしくなりましたね」


 それから早速、レノミアは集めてきた樹皮でカゴを作ると言い出した。


「カゴ?」

「今日のように山へ素材を集めに行く時に、背負えるようなものがあると良いかと……」


 樹皮を同じくらいの太さに割き、地面に並べて置く。それを縦糸として、直交するように横糸となる樹皮を並べる。途中で立体的に縦に織り上げ、深さのあるカゴへと仕上げていく。


「上手いな」

「この樹皮も使いやすいもので良いですね、ありがとうございます。……もう少し必要ですので、また取りに行っていただけますか?お一人で」


 やっぱり忘れられていなかった。倫太郎は頭を抱え、アイハはごめんなさい…とちょっとバツが悪そうに苦笑していた。



***



 二人の役割も安定してきたおかげで、山へ行くのも気軽になってきた。段ボールを用意できたとはいえ熊笹は布団として悪くない。まだ夏とはいえ、半月が経過して夜間は肌寒くなってきている。少しずつ冬支度をしなければ凍えてしまうだろう。

 樹皮も多めにとっては抱えて帰り、レノミアに樹皮を渡してから笹でベッドメイクをして……1日のうちにそれを数回。特にレノミアの寝床は厚めに笹を敷いて、これで秋は乗り越えられるようになったかもしれない。


「100日後……、は、もう冬ですね」

「それまでに色々準備をしないとだ」

「寝袋とか、買っておいたほうがいいかもね」

「畑も広げないと……」


 毎日、やることがないようで地味なものが多い。カゴ編みをレノミアに習いながら3人で作業していれば、立派な背負いかごがいくつか完成した。マタギって感じになったね、とアイハは笑う。いずれは狩なんかもするかとか、狩れる野生の生き物っているのかなとか話しながら、この日も暮れてゆく。

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