第6章 第1話 追放の真相に近づく影
セレスティアが冒険者たちと旅を続ける日々は、新たな発見と挑戦に満ちていた。最初は目を奪われるばかりだった異世界の壮大な景色にも、少しずつ慣れてきた。広がる草原やそびえ立つ山々、遠くに見える古代遺跡や巨大な城塞。そのすべてが彼女の心に刻まれ、異世界での生活を実感させるものであった。
また、旅の中で築かれた冒険者たちとの絆も、彼女にとって大きな支えとなっていた。筋骨隆々の戦士アルフの豪快さと頼りがい、弓使いのカイの軽快で明るい性格、そして魔法使いリウスの知的で落ち着いた雰囲気。それぞれが個性豊かで、彼女の中に新しい価値観や考え方をもたらしていた。
だが、どれほど賑やかで充実した日々を過ごしていても、彼女の心の奥底には常に一つの疑問が残っていた。
自分はなぜ、この世界で「国外追放」という形で生を始めたのか?
異世界に目覚めたその日、セレスティアは突然反逆罪の汚名を着せられ、国外追放を宣告された。その時の混乱や恐怖は、今でも鮮明に記憶に残っている。自分にはその罪を犯した記憶はない。それどころか、どうして自分がそんな立場に追い込まれたのか、いまだに分からないのだ。
「…どうして私は、この世界で追放される運命だったのかしら」
ある日の夜、焚き火を囲む冒険者たちの間で話が弾む中、セレスティアは一人で物思いにふけっていた。王国にいた頃の記憶は曖昧で、異世界に来てすぐのことも混乱の中でほとんど覚えていない。それでも、自分が不当に追放されたという感覚だけは確かに胸に残っている。
「セレスティア、大丈夫か?」
弓使いのカイが気づいて声をかけてきた。焚き火の光に照らされた彼の顔には、いつもの明るさがある。だが、彼女はその優しさに応えるように笑みを返しながらも、自分の心の重みを隠すことが精いっぱいだった。
翌朝、一行が休息を取っている間に、魔法使いのリウスがセレスティアに歩み寄ってきた。リウスは彼女にとって信頼できる相談相手であり、魔法に関する知識も豊富だった。
「セレスティア、少し聞きたいことがある」
そう言ってリウスは、焚き火の隣に座り、彼女の目をじっと見つめた。その表情はどこか真剣で、セレスティアは自然と背筋を伸ばした。
「君が国外追放された理由って、具体的に知っているのか?」
リウスの言葉は鋭く核心を突いていた。セレスティアは一瞬、何と答えるべきか迷ったが、嘘をつく必要はないと思い、正直に答えることにした。
「…実は私もよく分からないの。ただ、反逆罪って言われて追放されたけど、何をしたのかも、どうしてそんなことになったのかも全然覚えがないのよ」
彼女の答えを聞いたリウスは、少し驚いた表情を浮かべた後、考え込むように視線を下げた。
「なるほど。それは妙だな。普通、反逆罪なんて重罪を課せられるのは、明確な証拠がある場合だ。それが君には何の記憶もないとは…」
リウスの冷静な分析に、セレスティアは自分の胸に引っかかっていた違和感を再確認した。
「ただの誤解や陰謀だっていう感じはしているのよ」
セレスティアがぽつりと呟くと、リウスは真剣な表情を崩さず、少しの間何かを考え込むような沈黙が続いた。そして、やがて彼は口を開いた。
「実は俺の知り合いに、王国の内部情報を掴んでいる者がいる。噂好きな男だが、あいつなら君が追放された理由について何か知っているかもしれない」
その提案に、セレスティアは驚きとともに感謝の念を抱いた。しかし同時に、彼女は躊躇していた。王国に関わることは、自分にどんな危険をもたらすか分からない。それに、追放された自分が再び王国に近づくのは、許されない行為である可能性も高い。
「でも、それは危険なんじゃないかしら?」
彼女が不安げにそう口にすると、リウスは静かに首を横に振った。
「危険なのは確かだ。ただし、君がこの異世界で自分の役割を見つけたいのなら、真実を知ることは避けられないと思う」
その言葉は彼女の胸に深く刺さった。確かに、自分が追放された理由を知らないままでは、どこかでこの世界をさまよい続けることになるかもしれない。それは、この異世界での新しい生活を受け入れる上で大きな障害となるだろう。
その夜、セレスティアは焚き火の前で眠る仲間たちを見つめながら、一人で考え込んでいた。リウスの提案を受け入れるべきか、それとも村での生活を基盤にして、この話を忘れるべきか。
「私がここにいる理由を知るには…避けられない道かもしれない」
セレスティアは静かに呟いた。彼女の心には、王国に関する陰謀の気配が重くのしかかっていたが、同時にそれを解き明かさなければ、彼女はこの世界で完全に新しい人生を歩み出すことができないと感じていた。
焚き火の音だけが響く静寂の中、セレスティアは真実を求める決意を固め始めていた。
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