第5章 第1話
セレスティアが異世界の村での生活に慣れ、少しずつ村人たちの信頼を得ていった頃のことだった。彼女の持つ知恵と魔法を融合させた力は、村の生活を確実に豊かにし、彼女自身も心の中で小さな誇りを感じ始めていた。村人たちの笑顔や感謝の言葉に触れるたびに、自分がここで役立っている実感が湧き、今までとは違う充実感が彼女を包み込んでいた。
そんな穏やかな日々が続いていたある日の朝、村の入口に突然、数人の訪問者が現れた。村人たちがざわつき、入口付近に集まり始めると、そこには旅装束に身を包んだ見慣れない集団が立っていた。彼らは、まるで異世界の物語に登場するような冒険者の一行だった。重厚な鎧をまとった戦士に、俊敏な動きを見せる弓使い、そして優雅な仕草で魔法を操る魔法使い——その姿は村人たちとは一線を画し、彼らがこの村とは異なる存在であることが一目で分かった。
村人たちは戸惑いと興奮の入り混じった表情で彼らを遠巻きに見守っていた。そんな中、筋骨隆々の戦士が村人の中からセレスティアを見つけ出し、彼女に向かって歩み寄ってきた。
「やぁ、ここが例の“魔法使い”がいる村か?」
戦士は興味深げに、まるで獲物を観察するような目でセレスティアを見つめていた。先頭に立つ彼の姿は堂々としており、彼が仲間たちのリーダーであることは明らかだった。
セレスティアは一瞬戸惑ったが、村人たちが彼女のことを噂として話したのだろうと察し、すぐに落ち着きを取り戻した。
「私はセレスティア。この村で魔法を使っています。それで…あなたたちは?」
彼女は静かながらも、相手の言葉に応じるように答えた。
その問いに、戦士は自信ありげに口元をほころばせ、胸を張って名乗った。
「俺たちは冒険者だ。この世界を旅し、未知のものを探して歩くものさ。最近、この村で魔法を使った人間がいるって話を聞いてな、まさかその使い手が、あなたのような人物だったとは驚いたが…」
自分が使った魔法が村の外まで広まっている。それを知り、セレスティアは内心で驚きながらも、冷静さを保とうと努めた。村の人々のために施した数々の魔法が、いつの間にか外の世界で噂になり、異国の冒険者までをも惹きつけることになるとは夢にも思っていなかった。
「私の力が、外の世界で噂になっているなんて…」
彼女は不思議な気持ちを抱えながらも、冒険者の話に耳を傾けていた。彼らはセレスティアの力に興味を持っているようだったが、ただ噂を確かめに来たというだけではなさそうだった。
戦士が続けるように言った。
「セレスティア殿、俺たち冒険者にとって、魔法の力は何よりも頼りになるものなんだ。俺たちが旅するこの異世界は、村の外に出れば、危険と隣り合わせだからな」
その言葉には、長い旅を続けてきた者だけが持つ重みがあった。冒険者の一行が歩んできたのは、村の穏やかな日々とは対照的に、魔物がはびこり、危険が常に迫る過酷な世界だったのだろう。彼らの鎧や武器の傷はその証でもあり、長く険しい道をくぐり抜けてきた彼らの実力を物語っていた。
戦士の隣に立っていた魔法使いも、セレスティアに興味津々の様子で尋ねた。
「セレスティアさん、あなたはこの村で何のために魔法を使っているんです?噂を聞いたとき、単なる村人が使うにはあまりにも強力すぎるって思ったもので…」
その問いに、セレスティアは少し戸惑いながらも、誠実に答えた。
「私は、この村の人々が少しでも楽に暮らせるように、持っている知恵と力を使っているだけです。特別なことは何も…」
すると冒険者たちは、そんな彼女の言葉に興味を深めたようだった。魔法を身近な生活のために使うという考えは、彼らにとっては新鮮だったのかもしれない。彼らが旅で接してきた魔法使いとは異なる、穏やかで控えめな彼女の言葉に、冒険者たちはしばし沈黙し、その場の空気が少し和らいだように感じた。
しばらくの沈黙の後、戦士は少し真剣な表情を見せ、こう続けた。
「セレスティア殿、この世界にはまだまだ俺たちでも手に負えない危険な領域がある。俺たちはいくつもの村を回って、各地の脅威に立ち向かってきたが、どうにも手が届かない場所もあるんだ。だから、お前のような力ある魔法使いが、今後の旅に加わってくれるなら、共に危険に立ち向かうことができると思ったんだ」
その言葉に、セレスティアの胸の内に冒険への興味が生まれてきた。彼女は村での生活に満足していたが、どこかで異世界の広大な世界をもっと見てみたいという願いが眠っていることに気づいた。今まで村で村人たちと共に穏やかに生きることを考えていたが、もしかするとこの異世界で新たな発見や使命が待っているのかもしれない。
「村での生活も素晴らしいけど、もっと外の世界を見てみるのも悪くないかもしれない…」
そう小さく呟くと、冒険者たちはにっこりと笑った。彼らには、今この瞬間にセレスティアの心が少しずつ外の世界に向かって開かれ始めたことが伝わったのだろう。
異世界の広大な世界に対する好奇心と、冒険者としての新たな一歩——。彼女の胸には、未知の世界を見てみたいという思いが膨らんでいった。
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