魔法と知恵袋を携えて、異世界で新たな運命を

第4章 第3話

その夜、村は静かな夜風に包まれ、星々が青い夜空に瞬いていた。セレスティアは広場に立ち、一人で星空を見上げていた。昼間に披露した火を絶やさない調理器具は村人たちに好評で、彼女の魔法が少しずつ村人たちの生活を支えていることを実感する一日となった。村の女性たちが喜ぶ顔や感謝の言葉が頭に浮かび、温かい気持ちが胸に広がる。

しかし、ふとした瞬間、心の中に影のように重く漂う不安がよぎる。目の前に広がる夜空のように、彼女の心には未知の感情が広がっていた。

「この力が、本当に正しい使い方なのかしら…」

セレスティアは静かに呟いた。今の彼女には日本での「さとみ」としての経験と、この異世界で得た魔法の力がある。村の生活を改善し、村人の助けになることは確かだが、力を持つからこそその力が誤って使われることを恐れる気持ちが芽生え始めていた。

異世界に来てからというもの、セレスティアは異常なまでに多くの出来事に巻き込まれてきた。異世界の地に足を踏み入れた瞬間から始まった彼女の生活は、日本で過ごした穏やかな日々とは正反対だった。そんな中で、魔法が自分に与えられた意味を考えずにはいられなかった。

「この力は、どうして私に目覚めたのかしら」

日本で「さとみ」としての70年を生きてきた彼女は、自分の人生に力や責任を求めることなく、ただ自然に周囲と調和して生きることができていた。しかし、今は「セレスティア」として新しい力を持ち、村人たちに頼られる存在になりつつある。その責任の重さが、彼女にとって新しい感情をもたらしていた。

「私の力が役に立っているというのは確か。でも、これが本当に私の果たすべき役割なの？」

魔法の力は便利だが、それだけでは測れない責任が伴っている。それを村人のために使うことに意義を感じながらも、もしこの力が暴走してしまったら、あるいは悪意ある者に利用されたら——そんな不安が胸を締め付けていた。

冷たい夜風が頬を撫で、彼女は手のひらをじっと見つめた。かつて日本では、手を見つめることが自分を見つめ直すひとつの方法だった。その手から生み出される魔法は、村の生活を支え、作物を豊かに育て、調理器具さえも改良する力をもたらした。

「でも、私は本当にこの力を扱えているのかしら…」

村人たちに頼られることはうれしかったが、それが同時に彼女の心に不安と重圧をもたらしているのも事実だった。彼女が魔法を初めて発現した瞬間を思い出すと、どこか恐怖にも似た感覚が蘇る。

異世界での「役割」とは何か——彼女の胸に、その問いが浮かんでは消えていった。日本での「さとみ」としての経験では、誰かを支える役目で満足できた。しかし、ここではただの一村人ではいられない。新しい「セレスティア」としての役割が求められている気がした。

不安を抱えながらも、セレスティアの心には新たな決意も芽生え始めていた。この魔法の力がある以上、自分がそれをどう使うかが村人たちにとって重要なのだと理解していた。村人たちは彼女の力を頼りにしている。だからこそ、彼女は力に振り回されず、しっかりとその力を制御していく覚悟が必要だった。

「私はこの力を、誰かを傷つけるために使いたくはないわ」

月明かりの下、セレスティアは再び手を握りしめた。もしこの魔法が自分に与えられたのだとすれば、きっとそれはこの異世界で「誰かのために使う」ことが目的なのかもしれない。自分に課せられた使命が何であれ、彼女は村の人々のために、その力を慎重に使う決意を新たにした。

やがて彼女は、村での生活が少しずつ形を成し、この力が人々を支える役割として存在することを信じられるようになった。そしてこの夜、彼女はその力をどのように使うべきかを慎重に考えながらも、この村で生きることへの覚悟を少しずつ固めていった。

「私にできることがある限り、この村で支えになりたい」