第19話

 なぜ騎士様と紹介したのか。

 ていうか、そもそもなぜ彼女は敬語で話しているのか。

 色々と疑問がある中、さらに集まってきた生徒たちが驚きながらもどこか興奮した様子で俺を見てくる。


「まあ……っ! そうだったのですね!」

「と、とうとう騎士様を見つけたのですね!」


 ……皆同じような反応である。類友って奴だろうか。


「ええ。それに、なんと、私が暴漢に絡まれていたところを颯爽と助けてくれたのですよ」

「……きゃぁっ! そ、それはなんと……! 皆で話し合った憧れのシチュエーションそのものではありませんか!」

「ふふ、そうなんですよ。あの時は、とても興奮しましたよ」

「それは……素晴らしいですね!」


 きらきらとした目で何やら興奮した様子で盛り上がりを見せていく。

 ……とりあえず、柚香はまず学校ではかなり落ち着いた様子で話すようだな。


「どうされましたか、修二? 皆さまに、ご挨拶をしてくださいな」

「……おう」


 なんかいつもの雰囲気と違ってやりにくいな。

 そういえば、レティシアも普段は子どもっぽいところがあったのだが、人前に出ると丁寧な態度をとることが多かった。

 ……いわゆる余所行きの顔、ってやつか。

 お嬢様っていうのも大変そうだ。


「俺は、真島修二だ。さっき言っていた通り、柚香のボディーガードとして今後は学園に通うことになるから、よろしく頼む」


 それだけ言って小さく頭を下げると、彼女らはまた嬉しそうに小さな声をあげる。


「柚香さんのことを呼び捨てにしていますね……っ!」

「こ、これも……私たちが妄想していたシチュの一つですね……!」


 嬉しそうに彼女らが話している。……一体、どこに彼女らはテンション上がっているんだか。

 ひとまず俺は柚香とともに席へと座る。柚香は家での気の抜けた様子ではなく、ピンと背筋を伸ばしている。

 まさに、理想のお嬢様という感じだな。


 柚香のイメージを壊すつもりは別になかったので、俺も特には触れずにいた。

 柚香は生徒たちと談笑を行い、その途中で時々俺への質問が来る。特段、変な質問などはなかったので、無難に返事をしていると。


 教室の空気が一変した。

 その原因は、教室へと入ってきた生徒にある。どこか、力強い歩きとともにやってきた一人の美少女だ。

 彼女が教室に入ってきた瞬間に、明らかに空気が変化した。


 彼女も、その変化に気づいてはいたようだったが、特に気にした様子はなく自分の席へと向かっていく。ちょうど、柚香の前の席のようだ。

 だが、そうしてこちらへと歩いてくる途中で――彼女の脚がぴたりと止まり、俺を見て、驚いたようにこちらを見てきた。


「……お、お前。なぜ、ここにいるんだ?」

「……俺?」

「そ、そうだ! ま、真島修二……きゃっ! な、名前呼んじゃった……っじゃなくて、なぜこの学園にいるんだ!?」


 驚いたように彼女が俺の名前を叫び、睨みつけてくる。目が合うと数秒でさっと視線を逸らしたが、再びこちらを見て、見つめあうと恥ずかしそうに顔をそむける。


「……誰?」

「……しょ、小学校と中学校! 九年間一緒だった、七瀬遥(ななせはるか)だ! わ、忘れたのか……?」


 叫んだ声は強気だったのだが、すぐに弱気なものへと変わっていく。

 俺は、彼女の顔をじっと見ながら、必死に記憶を探っていった。


 彼女の顔をじっと見ていると、七瀬は恥ずかしそうに顔をそらしていた。そのツインテールの片方に、人差し指をくるくると絡めている。

 ……こちとら、中学、小学校のことを思い出そうとすると数十年前の記憶を遡る必要がある。

 

 七瀬遥……うん。確かにいた……かも。

 小学校、中学校と九年間……一緒だった。

 何度か、委員会や部活とかで話したことはあったが、中学卒業以降は特に接点もなかった。

 時々話す程度の関係……だったと思う。


「思い出した。確かにずっと同じクラスだったな」

「そ、そうだ! 私が家に頼んで、ずっとお前と同じクラスになるようにしてもらったんだからな!」

「えっ……」


 なにそれ知らない。

 七瀬は特に気にした様子もなく、あっけらかんと犯行を白状していた。

 俺が若干彼女に引いていたのだが、そんな俺を一切気にせず、話を進める。


「……コンビニでバイトしていただろ? でも、突然行方不明になって……なぜ今こんなことになっているんだ?」

「……な、なんでそんなに詳しいんだよ?」

「そ、それは……当然だろう。お前を監視していたのだからな?」

「監視!? なんのために!?」

「え!? そ、それは……お、お前を……えーと……その……こ、殺すためだ!」

「こわっ! 俺の周りの金持ちたち、どうなってんだ!? 頭おかしいだろ!」


 思わずツッコミを入れた俺だったが、その時、後ろから冷静な声が聞こえた。


「それはどういうことでしょうか?」


 振り返ると、そこにはいつも通りの笑顔でこちらを見つめる柚香がじろりとこちらを見てくる。

 いや、お前もわりとおかしい側の金持ちだからな? いやそりゃあまあ、学校でのイメージを壊しそうなことを言ったのは謝るけど……。

 七瀬がじとりと、そんな柚香を見る。


「……橘。そういえば、さっきまでやたらと親し気に話していたな?」


 凄い敵意むき出し。

 今にも噛みつきそう。

 ステイ、七瀬。

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