「それに……」



下を向いていた顔が少し上がる。



「早めに死んでも、しょうがないってなるから…いいよね。」



その時の蝉川さんの顔はひどく遠くを見ているような、そんな顔で、とても印象に残った。



『それってさ…』


「あ、先生来たよ。」



前の扉から担当の先生がプリントを持って入ってくる。



蝉川さんはこちらを見て、ふっと笑う。



「まぁ、虫って大体そんな感じだけどね。

補習もあと少しだから、頑張ろ?」



そう言って前を向いた蝉川さんと、それ以上言葉を交わす事は無かった。

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