占いのよく当たる喫茶店より~あなたの黒歴史やり直してみませんか?
だいじろまるだいじろう
第1話 不思議な合法ロリすみっこさんと謎の黒い球体
「じゃあ、ちーちゃん、きょうからじんにーのおよめさんになるんだね!」
目を輝かせた5歳児がこちらの目をしっかりと見てはっきりとそう告げた。
「ううん、そうじゃないよ?たしかにこれからかぞくになるっていったけどね?」
こう答えるオレも10歳児である。
「ともちゃん、君のご両親…お父さんもお母さんもこの度の事故で亡くなってしまわれたからね。君をウチで引き取ることにしたんだよ、一番近い親戚だしね。だから手続きを済ませた今日から君はウチの家族だ、私の娘だよ」
オレの父はやさしく彼女の頭をなでながら優しい笑顔でそう伝えた。
「ふーん?じゃあ、れーちゃんも?」
彼女のいう「れーちゃん」とは、今まさにオレの服の裾をギュッと握りしめているオレの実弟(8歳)のことで、なにやら先程の彼女の発言に不服なご様子。
「そーだよ、ともちゃん。かぞくでぼくのいもうとになるんだ。だからおよめさんにはならないし、なれないよ。それよりもいつもいってるでしょ?ともちゃんはともえちゃんだからともちゃんなんだ、ちーちゃんじゃないよ?」
「うん、ちーちゃんもとーちゃんにそういったんだけど、とーちゃんはずっとちーちゃんってよぶの。だからちーちゃんはちーちゃんなんだよ」
おそらくともちゃんのお父さんはともちゃんをかわいがるあまり呼び名が変化してしまったんだろう。
ともちゃん→ともちー→ともちーちゃん→ちーちゃんって具合に。
「とにかく、ともちゃんはかぞくでぼくのいもうとだよ!にいちゃんのおよめさんじゃないよ!」
言うだけ言うとぷいっとそっぽを向いてしまった。いつもはとても仲良しなんだけどなぁ。
ははーん、さては好きな子をオレに取られると思ったんだな?相変わらずオレの弟はかわいいなぁ。
お互いにいーってなってる二人をオレはほくほくと眺める。それらを更に優しく見守っている父。これからはこれがウチの家族の形なんだと思うとなんだかわくわくしてきた。
ともちゃんのお父さんはオレの父さんの弟。つまり、ともちゃんは元々オレ達の従兄妹にあたる。
そして、ひと月ほど前、その両親が交通事故で亡くなってしまい、一人残されたともちゃんをウチで引き取ることになったそうだ。
父さんと叔父さんはそれなりに仲がよく、何かと家族で集まって遊んだりしていたので、オレもレイもともちゃんともとても仲が良かったし、おじさんおばさんにもとても可愛がってもらっていた。
ともちゃんの家はお世辞にも裕福とは言えなかったけど、笑いが絶えずお互いが大好きな、まるでお手本のような温かい家庭だったんだ。
だから二人が事故で亡くなった時はとても悲しかったけど、ともちゃんをウチで引き取ることに決まった時はとてもうれしかったんだ。
「改めて八犬家へようこそ智恵ちゃん。今日は早速ウチでお祝いをしようね。っと、その前に、君の家に寄って必要なものを取りに行かないとね。大事なものがあるだろう?」
「はっ、くまさん!」
「うん、くまさんも連れて行こう。他にもお着換えやお気に入りもね」
「うん!よめいりどーぐだね!」
「だからちがうってば!ってかなんでそんなことしってるの?」
それからオレ達は彼女のアパートへ行き、主に遺品整理をした。
あまり裕福な家庭ではなかったので、そんなに家具も物も無かった。
それでもかたずけが終わる頃には日はとっぷりと暮れ、満月が山から顔を出していた。
…うん?今、月のそばで何か光ったような?あれ?気のせいかな。
「…ふう、今日はもうこの位にしておこうか。すっかり遅くなってしまったな」
「とうさん、ごはんにしようよぉ」
「ごはん!」
ごっはん、ごっはん!と合唱を始めた二人を見て父さんがやれやれといった様子。
「そうだな、ご飯にしよう。ここはまだ水も電気もガスも使えるし、食材も多少あるから今日はここでご飯にしようか。その方が智恵ちゃんのお父さんもお母さんも喜ぶだろう」
父さんは仏壇のともちゃんの両親の写真に挨拶をした後、残りの食材と明日の朝食を買うため、オレと近所のスーパーに向かった。
ともちゃんとレイはお留守番だ。ぼちぼちいつも見ている夕方のアニメが始まるから。
オレもいつも見ていて続きがすごく気になったけど、今日から妹が増えたんだ、がんばらなくっちゃ。
アニメをグッと我慢したオレと父さんのスーパーからの買い物帰りのこと。
なんだか消防車や救急車の音がするね、近所かなぁと父さんとのんびり話しながら帰ると、ともちゃんのアパートが燃えていた!
元々古いアパートだったからか、もうすでにどこが火元かも分からないレベルで全焼中だ。
消防隊のおじさん達が必至の消火活動をしてくれているがなかなか消えそうにない。
火事の熱でアパートにはまったく近寄れない。
こんなのの中に取り残されていたら絶対に助からない。
二人はこの炎の中にまさかいないよな、大丈夫だよな?と熱さをこらえて目を凝らして見ても、アパートの裏にお正月によく見る門松の竹が燃えずに何故か地面に突き刺さっている以外何もわからない。
そもそも他は原型をとどめているものが少なく感じた。
ぼーぜんとする中、父さんの声が聞こえた。
「礼っ!しっかりしろ、おいっ!」
担架に乗せられ今まさに救急車にのせられるところのようだった。
「ご家族の方ですか?彼は煙を吸って意識がない状態です。これから病院へ搬送しますが一緒に来ていただけませんか?」
「わ、わかりました。あ、あのっ、もう一人女の子がいませんでしたか?5歳で白のワンピースを着た!大事な娘なんです!」
「そういえば一台前の救急車が女の子を乗せていたはずです、そちらでは?それに救助者はこの子で最後のハズです」
「わかりました。よし、仁、おいで。これに乗って一緒に病院に行こう!」
「うん」
よかった、二人ともあの中にはいなかったんだ。助かるんだ、助かったんだ。
そう安堵しいつしか救急車の中で眠っていた。今日から一人増えた家族4人でこれから毎日を楽しく過ごすことを想像しながら…。
そしていつもここで目が覚める。
「にいさん、起きてよ、にいさん」
そう、いつもこの夢を見た時には、レイにこんな感じで起こされる。
あれから10年が経った。
オレ達は今、父の残してくれた喫茶店『月の涙』を細々と営み生計を立てている。
喫茶店経営は父の長年の夢だったらしく、5年程前から始めた。
が、2年経ったあたりで父は病に倒れ、闘病生活もむなしく息を引き取りこの世を去った。
オレは高校を卒業後、専門学校へ行き、この店を継いだ。
なれない喫茶店経営に悪戦苦闘しながら、それでも父の店を弟と二人で守ってきた。
レイは事故の後遺症もなく無事にすくすくと育ち、大学生となった。
高校生の頃から店でバイトとして働きオレを助けてくれていた。
で、それが今では…
ミニスカートのメイド服がよく似合う立派な男の娘になっていた!
どうしてこうなったのか…。
そういえば、ずっと前に何かの罰ゲームで一日女装して店の看板娘をさせたことがあったな。
でもその時はものすごく嫌がってめちゃくちゃ怒ってたんだ。
けど、「割と似合ってるし、案外可愛いな」って落ち着かせようと思って冗談交じりに言ってやると、まんざらでもなさそうにそのまま一日こなしていたが…。
ん? もしかしてそれでレイの中の何かの扉が開いたのか?
そして今では決まってミニスカメイド服でシフトに入り、男女問わずファンが増えた、立派なウチの看板娘?である。
「さあさ、起きて下さいな。次の占いのお客様がお待ちですの」
こっちは2年ほど前にふらりと突然ウチに『ここで働かせてくださいまし』とやってきて半ば強引にウチで住み込みで働く、見た目は小学生中身は大人を地でいく、黒髪前髪ぱっつんでツインテールが良く似合う、黒野墨子と名乗った女性だ。
コレでハタチで同い年とは…。
ホントにこんな人もいるんだな、こういうのを合法ロリっていうんだろう、世の中って広い。
この占いとは合法ロリのすみっこ(最近では親しみを込めて墨子さんのことをこう呼んでいる)に教えてもらった最近始めたもので、本来は『遠見の術』というらしく、ゲームのMPのように『心力』というものを消費しながら、その人の過去や未来を見通しどうすればいいかを助言するんだ。
詳しいことはまた今度な。
そして、この占いはよく当たると評判で、最近では他県からも占い目的で来るお客さんもいて、もはや店内は占い待機中か純粋に喫茶目的の客か、はたまた二人?の看板娘の固定客でごった返している状態だ。
ちなみに占いサービスメニューとは、レイの日替わりスイーツセットorオレの日替わりカレーセットの2種類だ。
このカレーはだなオレの自信作で…。
「さあさ、仁さん、お仕事お仕事、ですの」
…遠路はるばるご来店頂いたお客様のため、お仕事再開しますか。
「お待たせして申し訳ありませんでした、占い担当のジンと申します。それでは早速ですが、本日は何を占いましょう?」
次のお客様は割と年配の夫婦のようだ。一目しただけだが、実に仲睦まじそうな印象だ。
「実はある物の置き場所を忘れてしまいまして。困っていたところ、こちらの占いの評判を耳にした次第です」
「それはわざわざご足労いただきまして、ありがとうございます。その評判に恥じないよう努めさせていただきます。それでどういった物をお探しですか?」
するとなにやら言いにくそうに…
「実は」
「はい」
「漬物石なんです」
と旦那さんが消え入りそうなか細い声でそう言った。
うん?漬物石?え?何かの隠語なの?え?ホントに?そんなの無くしても近所のホームセンターで新しいの買ってきなよ。
…などと思っていると表情で決して悟らせないように明るく対応する。
「漬物石、ですね?わかりました、早速占いましょう」
そう言うと旦那さんと奥さんの表情がぱっと明るくなった。
もしかすると物がモノだけに断られると思ったのかもしれない。
『たとえどの様な依頼であろうと、決して相手を否定したりしてはいけません、小馬鹿にするなんてもっての外。まず自分自身の中に落とし込んで、相手に寄り添う気持ちが大切ですの』と、すみっこに教わったからな。
「ではまず。少し手に触れさせてもらっても構わないでしょうか?」
初見の方はまずここで必ず「ん?」となる。
いや、オレだってそうだった。さっきの女将さんは慣れてるだけだ。
「僕の占いは相手に触れないとできないものでして。申し訳ありませんが、少し手を触れさせていただけませんか?」
「あ、ああ、そうなのですか。いえ、一向にかまいません」
そう言うと、旦那さんは右手をスッと差し出した。
「では件の漬物石を頭の中で思い浮かべてください。イメージが強ければそれだけ探しやすいです。写真などお持ちでしたらそれを見ながらでも構いませんよ」
それを聞いて旦那さんはスッと静かに目を閉じた。
見れば隣の奥様も同様にしており、更にテーブルの下で手を繋いでいる。ホント仲がよろしいようで。
さて、今度はこちらの番だ。
旦那さんを触れている手と反対の手を、手近にあるモニターにつながる端子をぎゅっと握りしめ集中する。
と、しばらくしてモニターがジジっと音を発した次には漬物石が映っていた。
しかも金色!もしやこれが噂の純金の漬物石ってやつか!初めて見た。はぁーなるほどなるほど、そりゃあ藁にも縋る思いでこんなオカルトにも頼りたくなるよな。
と、こちらが軽く感動していると、二人はぎょっとした表情をしてモニターを見ていた。
あぁ、そうね、そうだよね。初めて見るとそうなるよね。オレもすみっこに教わった時にはそんな感じだったよ。
「はい、もう手を放して大丈夫ですよ。こちらが探し物で間違いないでしょうか?」
オレはにこやかに二人に確認する。
「え、ええ、これ、これです。うん?ここは?」
「んー?なんだか見覚えがあるような?」
「では背景がもっとわかるようにぐるっと廻して見ましょう。これでどうです?」
オレは背景が分かるように拡大したり縮小したりぐるぐる廻して、より分かりやすくしてみせる。
「あ、あー!あそこだ。ほれ、この前蔵を整理して…」
「あー、あそこね、なんであんな所にあるのかしら」
どうやら漬物石の在処に無事見当がついたようだ。
「ご確認いただけましたか?」
「ええ、大丈夫です。これから帰ってすぐに行ってみます」
「お役に立てて何よりです。これからもなにとぞご贔屓に」
にこりとすると向こうも心配事が無くなったのか、スッと肩の力が抜けた本当の笑顔で、お礼を言ってくれた。
「もちろん、本当にありがとう」
「また来ますね」
「お待ちしております」
こうして本日最後のお客様は無事足取りも軽くお帰りになった。
…ただ、今のお客さんにはこの後に不穏な未来が見えたんだが、伝えないことにした。
それは確率的にはかなり低いものだったし、何より、起こらないことを願いたかったからだった。
この判断が後で後悔に変わることをオレはまだ知らない。…言ったろ?自分の事は占えないって。
「あんなところにあったんだな、純金の漬物石」
「ほんとね、なんでかしらね」
「これでまた君の美味い漬物が食べられるよ」
「はい、まかせてくださいな、うふふ」
なんて会話が遠ざかっていく。ふー、やれやれ、今日もこれでお仕事おしまい。
「仁さん、本日の占いもあのお二人でおしまいです、他のお客さんももうお帰りになりました。くろーずの準備をしてきますね?」
「ああ、ありがとう。じゃあ頼むよ」
はいですの、とこちらに軽く会釈をして部屋から出て行った。
立ち振る舞いも話し方もいつも上品でついうっとり見てしまうが相手は合法ロリだ。
合法であっても無くてもオレはロリには手を出さない、絶対にだ。『イエスロリ、ノータッチ』だ!
みんなもだめだぞ?お兄さんとの約束だぞ?
…うん?でも、合法ロリはいいのか?だってあいつオレと同い年…。
さてようやくここでオレは一息つくことが出来た。
ゆっくりと目をつむり、ふーっと深呼吸をしながらこれまでの事を改めて思い出していた。
そう、オレ達はある目的のためにこの店で占いをやってるんだ、その目的とは…。
あの火事の日に行方不明になったオレの、オレ達の義妹の智恵を探し出すことだ。
救急車に乗って病院についた後、父さんがレイの前に搬送された女の子に会いに行ってみるとまったくの別人だったそうだ。
父さんは頭がおかしくなりそうなくらい取り乱して、救急隊員や病院関係者に詰め寄っていたが埒が明かないと判断し、オレにレイを見ているように言うと火事のあったアパートに戻っていった。
次の日の昼前に父さんは戻ってきたが、ともちゃんは一緒ではなかった。
周辺をくまなく探し、周囲の人たちに見掛けていないか聞き込みをして廻ったり、警察に相談して行方不明者登録もしてきたと聞いた。
その時の父さんは見ていて不憫になるくらいな、やつれ具合だった。
火事の跡から死体も出てこなかったことで、当時のテレビや週刊誌で不思議な行方不明事件として取り上げられたが、行方は一向に知れないままだった。
それからしばらくして父さんは勤めていた会社を辞め、喫茶店を開いた。
本人は昔からやってみたかったからだ、と不出来な笑顔を向けたが、子供心にともちゃんを探す手がかりを得る為だったのだろうと何となく理解した。
そんな折、すみっこが『ここで働かせてくださいまし』とやってきた。
父は合法ロリのすみっこの姿とともちゃんとを重ねたのか住み込みの条件で即時採用した。
そして、オレ達の事情を知ったすみっこは『よく当たる占いを教えるのでそれで探してみては?』と提案してきた。
今考えるとよく分かるんだが、当時のオレは、『なら、わざわざ教えてくれずとも、すみっこ自身が占ってくれればいいのでは?』と考えたもんだ。
いかにすみっこ自身に占いの腕があろうと漠然としすぎる上に、8年も前のことだとすみっこの心力が足りないらしい。
では何故オレ達がその占いを使う方がよいのか?
答えはこの占いの条件として『自分が関わることは視ることができない』ってのがあるからなんだそうだ。
自分自身の過去や未来を占おうとすると、画面も頭の中も真っ白になって何も見えなくなるそうだ。ホワイトアウト(吹雪などで自分の周囲が分からなくなる現象だったかな)になるんだって。
なので、その現象を逆手にとって、『本来の占いをすると同時に裏でともちゃんの行方を知っているかを確認する』ことにしたんだ。
関係のある者がいた場合、裏作業スキルがホワイトアウトし判明することができる、らしい。
らしいっていうのは、今だその現象を自身で確認できていないから…つまりまだともちゃんは見つかっていない。
それにこれ、二つの占いを並列思考で制御しなくちゃいけないから、当然心力も倍消費する。
だから教わった時は一回やっただけで死にそうになった。
すみっこはくすくす笑ってたけど、あの時はホントにヤバかった。
それならなんでレイはやらないのかって?
これにも理由がある。
レイはやらないんじゃなく、できなかったんだ。
すみっこが言うにはレイは不適合者だったって、ちょっと悲しそうな顔をして泣き出しそうなレイを慰めてた。
「どうだった、にいさん。今度は見つかったかい?」
老夫婦と入れ替わりに入ってきたミニスカメイドは若干心配そうな目で答えの分かり切った問いを投げかけてきた。
「いいや、だめだった。いなかったよ」
「…そう。僕にもそれができたら、にいさんの負担も随分減るのにね」
「まあな。けどオレにしかできないなら、オレがやるしかない。こいつがレイを認めてくれればいいだけなんだけどな」
そう言うとオレは『こいつ』を上着の内ポケットから取り出すと恨めし目で見てやる。
そもそもこのスキルだって、すみっこにこうこうこうやってっと教わったわけではなく、こいつを使ったんだ。
いつもは上着の内ポケットに入れてる黒くて丸い直径3cm程度の球体。
すみっこはとある大事な人からの大切な預かりものだと言っていた。
それをこうしてオレに持たせているのは、まず、適合者でないと使用できないのと、何かあれば、本来の持ち主のところへ必ず戻るから、なんだそうだ。
そんな黒い球体をぎゅっと握りしめ集中すると、にわかに虹色に輝きだし、
「…スキル付与優先順位、第三位者。出力一割まで。現在スキル数三。現在のスキルの進化まで残り五十得。…何か御用ですか?」
こうしてアナウンスが流れる。
しかし毎回思うけど、もうちょっと何とかならないのかねぇ。ホント愛想が悪いというか何というか…。
「なんでもないよ、進化まで残りどのくらいか知りたかっただけ」
「…」
だから、こちらもついつっけんどんな言い方をしてしまう、オレの気持ちも分かってもらえるだろうか。
オレがそう言うとこいつは何も言わずまた元の黒い球体に戻った。
このスキルは『得』つまり善行をいくら積んだかで進化…ゲームでいうところのレベルアップをする。
進化すると心力の消費がどんどん抑えられるようになる。つまり、同じ心力でもっと深い過去、遠い未来が視られるようになるんだそうだ。
今は頑張れば五年分の過去と未来を視ることができるが、十年前の火事の日の真実を知るためにはもっともっと進化させないと…そのためにももっと善行を積まないと、占いの数をこなさないと。
というわけで格安の値段で占いをして様々な人達に貢献することで日々善行を積んでいるワケだ。
「ホント不思議だよね、ソレ。僕が握っても何にもならないのに」
オレから手渡された黒珠をレイは何度もにぎにぎしている。
…その姿をちょっと可愛いと思ってしまった。はっ、いかんいかん、そんなこと言ったらまた怒られる。
「じゃあ今日は久しぶりに三人で外食にするか」
そう言うと、さっきまでぐったりとしていたレイがパッと明るい笑顔になった。
「ホント?やったー!…あ、でも、今日の料理当番すみさんだよ?いいの?」
「う!まぢか…じゃあ外食は明日だな」
「…だね。すみさんのご飯ホント美味しいよね。…なんでウチで働いてるんだろう?」
「…確かに」
すみっこは住み込みでウチで働いている。
そして食事だの掃除だのは不公平が出ないように三人で当番制にしているワケだ。
で、すみっこは何をやらせてもプロ以上にプロ級だ。
料理をさせれば、近所のスーパーのタイムセール品をどうやったらこんなクオリティになるのかというレベルでとにかくうまい。
掃除も洗濯もすみっこが当番の時はすべてが輝いている。
しかも手際がよく、無駄がない。
また、先程も言った通り、上品で人当たりも良く笑顔も絶えない、しかもそれらを鼻にかけることもなく嫌味がない…こんなところに完璧超人が!
だからか、ウチの店でもそんなすみっこに交際や結婚を申し込む者が後を絶たない。
ご近所で評判のお嫁さんに欲しい人物、一家に一人欲しい人物ナンバーワン、だそうだ。
…ホントになんでわざわざウチに『ここで働かせてくださいまし』って来たのか。
すみっこならどこでも引っ張りだこだろうし、なんなら自分で店を構えても三ツ星くらいすぐ取れそうだ。
挙句にあの不思議な黒い球体を使って、オレに占いまで教えてくれたし…。
ただそんなすみっこにも苦手なものはあった。それはなんと家電だ。
そう、すみっこは自分一人ではテレビをまともに見ることも、電話をかけることもできないのだ。
いや、テレビなんてスイッチ入れてチャンネルをガチャガチャ回すだけだって思ってるだろ?それが何故かできないんだ。
こればっかりは何回教えても未だに一人では使えないので、テレビを見るときはオレかレイにお願いする形になっている。…あんなに何でもできるくせに…不思議だ。
レイとすみっこについてあーでもないこーでもないと話をしていると、部屋の扉がノックされ、閉店準備の済んだ薄暗い店内から件のすみっこが顔を出した。
珍しいな、閉店準備が終わったならいつもはノックなんかせずに扉をバンっと開けて「じゃあお疲れ様でした、さあ夕方のあにめですわ」ってレイを連れてそそくさといなくなるんだけど。
「仁さん、ちょっとだけよろしいですの?」
というすみっこの後ろには二人分の人影があった。…もしや残業か?
つづくよ
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