第40話

07.交奏曲



一度パーティで見て、その楽器から出てくる音色が、少年は好きになった。


ポロン…


真似して指を動かしてみるが、音は同じようには出ない。


少年は領内にある森の木の上に登って、こっそり弾いていた。落ちてしまわぬよう、枝がしっかりとしている場所に座って。


「竪琴ははじめてなのか?」


「え?」


下から声がして、思わず楽器を落としてしまいそうになった。


「…誰?」


「俺様はただの吟遊詩人さ。

それより、弾き方を教えてやるぜ?」


外見は兄さんと同じくらいの年に見えた。サラサラとしたブロンドの髪に蒼いバンダナを巻いて、腕には竪琴を抱えていた。


「え…」


答えるのがためらわれた。

旅人のようだが、もしもという不安もあったからだ。

しかし、男は片目を瞑ってウィンクをした。


「俺様の演奏なんて、なかなか聴けないぜ?」


竪琴に張られた弦を細く長い指で男は撫でた。


「う…うわぁ…!」


たった一回だけなのに、少年を驚かせるには十分だった。


「よ…よろしくお願いします!」





「…しばらくその人に竪琴を教わったんだよ」


「へぇ」


情景を思い浮べながら語った少年は、その時よりも顔つきや背丈が変わっていた。

隣で話を聞いていた彼より少し年上の少年は微笑んで返した。



「……ちょっと、今の話って」

「まさか…ねぇ?」


その話を聞いていたのは彼だけではなかったようだ。

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