第88話

昨日も今日も学校で顔を合わせたけど、あいつ自分ではそんな話一つもしてこなかった。


まぁ、学校でそんな話してきたら絶対どっかで聞き咎められる可能性高いし、そもそもあいつ四六時中人に──特に女子達に──取り囲まれてたからそんな暇もなかったんでしょうけど。


ちなみにもしここでデートのお誘いを断ったら、やっぱり私の嘘を皆にバラすってって事になるのかしら。


思いながら、万亀のあの爽やかな悪い笑みを思い出す。


いかにも『ほんとにやるよ』って感じの悪い笑みだったけど……。


けど実際にはあいつ、そんな事しなさそうな気もする。


とはいえ、よ。


私は猪熊さんが目だけで何かを訴えてくるのに気づいていた。


もちろん口にはしないしなるべく感情にも乗せないようにしてはいるみたいだけどその目は明らかに、


『お願いだから断らないで下さいね……』


っていう懇願の込もった目だった。


まぁ……猪熊さんには、この送り迎え含めて色々と絶賛迷惑かけまくり中だしね。


ここで『面倒くさいからヤダ』なんてワガママ言ったらバチが当たるか。


私は── 一つこっそりと息をついて、そんな猪熊さんに答える。

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