第60話

立派なSP二人と、猪熊さんは何事もなかった様にさり気なく私からも万亀からも目線を逸らしている。


ご近所の人達の視線がちくちくした。


万亀のぽつねんとした悲しげな立ち姿がものすごい同情を誘ってくる。


ここでそんな言葉を、情け(?)をかけちゃいけないっていうのは私にもよ〜く分かってる。


万亀がいくら悲しげだろうが、恥をかかせることになろうが、ここは捨て置いて行かなきゃいけないって事も。


だけど……。


こんな状況で、そんな事出来る?


私は はぁっと一つ息をついて、仕方なく万亀の所まで数歩戻って、言う。


「〜分かった。

今日だけ……。

今日だけは学校の近くの角、二つ前の所まで一緒に行きましょ。

だけど明らかに人目を引き過ぎるようならもっと手前で私だけ先に行かせてもらうから。

あと、これからは例えこうやって私の家まで来て待っててもらってても絶対無視するからね。

分かった?」


言うと──万亀がパァッと顔を輝かせる。


「〜うん、分かった」


そう、にっこり笑って言うのに、こちらの様子を見ていた近所のおばさま方が「きゃあっ」と乙女らしい黄色い声を上げる。

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