第2話

息を潜めたいのに、肺がいうことを聞かない。


──誰か……


願い、目をつぶった、瞬間に。


ガッと乱暴にクローゼットの扉が開け放たれた。


そして、腕を掴まれ乱暴に引っ張り出される。


「きゃあっ…!」


半ばパニックになりかけ、声をあげた彼女に。


「ミーシャ姫、私です」


冷静な、けれど緊迫した声がかけられる。


よく知った、頼りがいのある男だった。


長兄の身辺を守る騎士、ジュードだ。


ミーシャはその事に気づき、「ジュード…」と息をつきながら答えた。


騎士、ジュードがいう。


「ご無事でしたか。

アルフォンソ様の命により、お助けに上がりました」


アルフォンソというのは、長兄の名だ。


ミーシャはぞくりと背筋に凍りつくようなものを感じた。


どうしてこの非常時に、ジュードは主を──…アルフォンソを放ってここへ来たのだろう。


「──兄上は…?」


心許なく問いかけた先でジュードの眉がピクリと動いた。


それが答えのようなものだった。


ジュードはまっすぐミーシャを見、いう。


「話は後です。

とにかく今は、ここを無事に抜けることだけ考えましょう。

私についてきてください。抜け道からあなたを外へ逃がします」


有無を言わせぬ口調で言って、ジュードがミーシャの手を引いて部屋を出る。


部屋の外は──まさに地獄だった。

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