リッシュ・カルト〜一億ハーツの借金を踏み倒した俺は女装で追手をやり過ごす!って、あれ?俺超絶美人じゃねぇ?〜

@hanetomiku

序章1.ミーシャ

第1話

ワーッ、と耳鳴りがひどい。


彼女は肩で激しく息をしたまま、クローゼットの中の服の間に埋もれるようにしゃがんで隠れていた。


閉じたクローゼットの外では恐ろしいほどの喧騒と怒号、悲鳴が響いている。


──一体、この城内で何が起きているのだろう?


ガタガタと、身体中が震えている。


いつもは侍女がきれいに結わえてくれている長い黒髪はそのまま肩に流れ、ゆったりとした寝巻きからのぞく細い腕や足はひどく頼りない。


先程から、歯の根も合わない。


「──まだ第二王子と王女がいるはずだ!

逃がすな!確実に捕らえて始末しろ!!」


ガシャガシャと鎧と鎧が激しくぶつかり合う音と共に怒鳴り声が響いてくる。


彼女は、ますます動悸がひどくなるのを感じた。


クローゼットの扉の隙間から、ちらちらと赤い光が見えだした。


炎だろうか。


そういえばどこか焦げ臭い。


父王は、母は──…そして二人の兄たちは、一体どうしただろう?


真夜中の突然の襲撃に、ひとまずこのクローゼットの中へ隠れてしまったが、見つかるのは時間の問題だろう。


それとも徐々に温度を上げ、迫っているらしい炎に巻かれて死ぬ方が先か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る