7-3 賢くなんてなくていいからせめて補習は免れろ
「三佳島さん、なんであかりと仲いいの?」
「それはどういう?」
「ほら、三佳島さんが誰かと仲良くしてるところ、あんまり見たことなかったっていうか」
「確かに私は友達が居ないし、友達が居ない故に声すら認知されていないことが多いのかもしれない」
「そこまで言ってないそこまで言ってない!」
霧島は慌てて訂正する。でも訂正しなくていいよ、事実だし。私が三佳島との思い出を話しても、二人とも信じるどころか私の妄想だと決めつけるレベルだしね。
霧島達との会話をこうして聞いていても、三佳島が友達を作るのはなかなか難しそうに感じる。慌てる霧島をよそに、十村はマイペースに切り込んだ。
「三佳島さんは、あかりのどんなとこが好き?」
「分からない。でも、一緒にいて楽しい」
「え……?」
十村は絶句する。絶句するな。まるで私が一緒にいて楽しくない人間みたいだろ。
でも、十村の反応には私も心当たりがある。私が、というより、一緒にいる三佳島が別に楽しそうに見えないのだろう。顔に出ないから。一緒に居て楽しいと思ってくれているなんて、私だっていま初めて知った。
こんなシチュエーションでもなければ、聞けなかったかもしれない。バーンと出ていこうと思っていたのに、そうすべきじゃない気がしてきた。
「ところで」
「なになに!?」
「あかりの好きなものを知りたい。食べ物など」
「あぁ。結構子供っぽいものが好きなんじゃね? ね、霧島」
「そうそう。一緒にファミレス行ったらハンバーグとか頼むよ。あと、唐揚げとかすきかも」
子供っぽいものが好きと言われてちょっと恥ずかしかったけど、まぁその通りだからいっか。三佳島がそんなことを知りたがっているのは意外だったけど。
「なるほど。あかりはお弁当に唐揚げが入っていると顔を綻ばせる。私の推測は正しかった、ということが証明された」
「そ、そうなんだ。でも、それは他の食材に反応してた可能性もあったんじゃない?」
「私もそう思った。だからお弁当の日は中身をチェックして、該当の食材にあたりをつけた。それが唐揚げ、ということ」
得意げに話してるとこ悪いけど、怖いよ。三佳島。日々そんなチェックされてたなんて知らなかったし。
ほら、十村達ドン引きしてるじゃん。引くって、それは。
「他には?」
「え?」
「あかりの好きなもの」
「うーん、三佳島さん」
こら、十村。適当なこと言うな。出て行って「ばか!」って言ってやりそうになったけど、視線を三佳島に向けると、そんな気も失せた。
めっちゃ、にこーって笑ってる。え、そんな顔で笑えたの?
初めて見たんだけど。明らかに適当に言われてるだろうに、すんごい嬉しそうなんだけど。精神年齢五歳くらいなの?
「とても、嬉しい」
「そ、そっかぁ。……ちょっと、十村」
「いんじゃね? 実際好きでしょ。最近ずっと一緒にいるし」
「ま、まぁ。私といるところを見て三佳島さんが「浮気」なんて言う程度には、そういうコミュニケーションが普段からあるってことだよね」
霧島。黙ってお願い。
「そうなの!?」
「そうだよ。三佳島さん、あのときすごく悲しそうだったよ。背が高くて、名前に島が入れば誰でもいいんだ……って」
「その言い分もおかしいだろ。あー……え、あの、ゴムってさ。本当に……」
もういい、十村も黙って。やめて。
「ゴムって?」
「二人で、ほら。ゴム買いにきたんだよ。あたしのバイト先に」
十村ーーーーーー頼むーーーーー。
もう出ていこうかな。補習受けた方がマシな気がしてきた。
「え、輪ゴムじゃないよね?」
おかしいだろ。なんで友情の証に二人で輪ゴム持ってるんだよ、どういう事情だよ。小学生でもやらねぇよ。って言いたいとこだけど、コンドームを友情の証に持ってるのも十分頭おかしいんだよな。
「二人とも」
「は、はい」
「あまりその話はしないで欲しい。あかりに口止めされている」
お前さーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
その言い方は怪しいから。駄目だから。
「でも、あのときは元気づけようとしたって……はっ! 俺が忘れされてやるよ的な話だったってこと!?」
「えぇ!?」
「まぁある意味そういう話ではある」
バカ。アホ。
耐えきれなくなった私は、勢いよくドアを開けた。上手く誤解が解けないかなと期待したけど、それってこの死体生き返らないかなってワクワクするのと同じくらい有り得ないことだって思ったから。
「ばかっ!! そんな言い方したら誤解されるでしょうが!」
「あかり!? いつの間にそんなところに!?」
「最初からだよ! 逆にこのやりとりの最中にここに忍び込んだとしたら忍者すぎない!?」
あちゃーという顔をしている十村達のことはほっといて、私は三佳島を叱りつけながら、ここにいる経緯について話した。もうどうとでもなれ。
「そう。それで隠れていた、と。まぁ、間違ったことばかり書いているな、とは思った」
「三佳島、カンニングしようとしたってこと!?」
「? 佐久の答案を見てもカンニングにはならない。正解が書いていないのだから」
「お前ーーーー!!!!」
なんてこと言うんだ。ロジハラにも程がある。というか合ってようが合ってなかろうが人の回答を見るな。
カンニングするつもりがなかったとしたら、私がどんな答えを書いているのか知りたかっただけということにあるけど、こいつ私のこと好きすぎるだろ。
私がズカズカと歩いて行って三佳島に掴み掛かろうとしたところで、教室のドアが開いた。ガラッと音がした方を向くと、そこには、避けに避けまくっていた伊東先生がいた。
「楽しくお喋りしているところ悪いけど、隣で補習をしてるから……おや?」
「あ」
「佐久さん、いいところに」
「え、えっと」
「小テストで四点以下だった子に補習をしていたんだ。来なさい」
「え、ちょ」
先生は穏やかな表情を崩さぬまま、私が支度をして観念するのを待っていた。そんな、こんなことって。振り返ると、十村と霧島が笑っていて、三佳島が気の毒そうな顔をしていた。
「佐久、答えが分からないからって、空白を全てミトコンドリアで埋めるのは辞めた方がいい」
「うるせぇー!!」
私の珍回答を聞いて、十村達の笑い声が更に大きくなる。くっそ。くそぉ。
この日、私は少し賢くなって帰ることになった。三佳島は、何故か私が終わるまで待っていた。忠犬か何かか、こいつは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます