第25話
『ちょっと…。何か、さっきから朝霧溜め息ばっかりついてるよ?そんなんじゃ幸せが逃げていっちゃうんだから』
実琴はそう言ってやりたかったが、口から出てきたのは「みゃー」とか「にー」とか、そんなものだった。
(ううぅ…歯がゆい…。言葉が喋れないのってこんなに苦痛を感じるものなんだなぁ…)
自分の中では伝えたい言葉や気持ちがちゃんとあるのに、それを相手に伝えることが出来ないもどかしさ。
(…さっきのネコちゃんも、こんな風に私に何かを
樹の上で小さく震えて鳴いていた子猫を思い出す。
(あの子は今、どうしてるんだろ?)
自分がこうして『子猫』になっているということは、向こうが『辻原実琴』になっているのかも知れない…と考えるのが自然だけれど。
(さっきはずっと気を失っていたけど…。目が覚めたらきっと、訳も分からずに不安だよね)
せめて目が覚める時に傍にいてあげられたら、と思う。
自分に何が出来るか分からないけど。
戻り方なんか、知らないけれど…。
思わず気持ちが沈みかけて俯いてしまった実琴を、朝霧が突然両手で抱え上げた。
『えっ…?何っ?』
そして自分の目線の高さまで持ち上げると、じっと様子を
まるで、こちらの心を見透かすような、真っ直ぐな視線。
(…あさ、ぎり…?)
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