第27話

「これ……どうして……」


手の中の押し花に釘付けになっていると。


「遥は覚えてるか分からないけど、その花はペチュニアっていうんだ」


蒼くんが以前のように教えてくれる。


「覚えてるよ。覚えてる……。だって、大好きな花だもん。昔、蒼くんが教えてくれたよね?」

「うん……」


少しはにかみながら蒼くんが頷いた。


(もしかして、私が好きだって言ってたのを覚えていてくれたのかな?)


じーん……と胸が温かくなる。


「このしおり。駅前の花屋さんの、だよね?もしかして、蒼くん?毎年、誕生日にカードを届けてくれてたのって……?」


誕生日に届くこのしおりのことはずっと気になっていたのに、今日は色々なことがありすぎて、すっかり頭から抜けていた。


「ああ。ユウから預かった手紙を届けていたのは全部、俺だよ。その……ユウが手紙を書けなくなってからは、俺が勝手にその役を引き継いでしまったんだけど……」

「蒼くんが……」


その事実にも、また驚きを隠せない。


(蒼くんだったんだ……。今までのしおりも……)



『ハルカのたんじょうびに、この花をプレゼントするよ』



(あの約束を覚えていてくれたのかな……?)


もしも、そうだとしたら嬉しくてたまらない。


ずっと、嫌われてしまったのだと。

途切れてしまったものと思っていたのに。

まさか……。

毎年、誕生日にカードを届けてくれていたのが蒼くんだったなんて。


「綺麗だね。ありがとう。大切にするねっ」


遥は心から感謝の気持ちを述べた。


「それ、遥の為に作ったんだ。昔、遥……その花が好きだって言ってたし、いろんな色の花を見せてあげたくて。本当なら花束とか生の花の方が良かったんだろうけど……」

「蒼くん……」


やっぱり覚えていてくれたんだ……という思いと、ひとつの疑問が浮かぶ。


「あれ……?でもこれ、花屋さんのじゃ……?」


付いているリボンは少し違うものの、その他の造りは殆ど先日母が貰って来たものと変わらない。勿論、花屋で自分が直接購入してきたものとも同じ感じだ。

だが、蒼はどこか言いにくそうに口を開いた。


「実は、あの花屋は……ウチの親がやってる店なんだ」

「え……?」


その言葉に衝撃を受ける。


「店で売ってるやつも全部俺が作ってるんだ」

「えっ?」


確か、店員の女性が自分の子どもが作ってくれていると言っていた。


(それが……まさか蒼くんのことだったってこと!?)



「えええええーーーっ!?」



「……驚いた?」

「び……びっくりしたよっ」


でも、確かに家が花屋さんを経営しているのなら、蒼くんが小さな頃から花に詳しいことも頷けると思った。

蒼は、遥の驚き様にクスクス笑っていたが。


「暴露ついでに言っちゃうと、あの日」

「……あの日?」

「遥が店に来た日。俺、店の手伝いで奥にいたんだ」

「!!」


(はっ!恥ずかしすぎるっ!!)


まさか、蒼くんに見られていたなんて!!

あのしおりのことを確認する為に、わざわざ店を訪れる客…。それは普通の客として、どこか可笑しくはなかっただろうか?


(いやいや、十分変わった客に違いないでしょうっ!)


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