第26話
「いいのっ!だって、私っ……蒼くんの気持ち、嬉しかったからっ……」
「遥……」
蒼くんは蒼くんなりに私のことを思って行動してくれていたのだと知ることが出来たから。
「嫌われてなかったって分かっただけで……。本当に嬉しかったからっ」
カーッと、顔に熱が集中していくのが自分でも分かる。
少しだけ驚いたような顔でじっ……と見つめて来る蒼くんの視線を感じながらも、恥ずかしさを誤魔化すように、ひたすらに笑顔を浮かべた。
すると、少しだけ眉を下げて蒼くんも笑顔を見せてくれる。
「当たり前だよ。遥は何も悪くないんだから。遥を嫌う理由なんか、ないだろ?むしろ俺は……」
そこで一旦言葉を区切ると、迷うように視線を彷徨わせていたが伏目がちにぽつり……と呟いた。
「ユウに嫉妬していた位なんだから……」
「え……?」
(嫉妬……?蒼くんが……?)
そこで視線を上げた蒼くんと、再び目が合う。
「俺は昔から人と争うことは嫌いだったけど、これだけは……。遥のことだけは、ユウに簡単には譲れないって思ってた」
「あお、くん……」
気が付いたらお互いに足を止めて向かい合っていた。
傍に立つ街灯の明かりが、まるでスポットライトのように二人を上から淡く照らしている。
「俺……遥のことが好きだよ」
静かに。優しい微笑みを浮かべながら蒼が囁くように言った。
「………っ……」
その、想像もしていなかった、あまりに嬉しい……嬉し過ぎる言葉に。
遥は、まるで時を止めてしまったかのように呆然と立ち尽くしていた。
「たとえ遥がユウのことを好きで、すぐには忘れられなくても……って、遥っ?」
呆然と動かぬままに大きな瞳から涙を零す遥に、蒼はぎょっとして慌てた。
「ごめんっ。俺、またお前のこと何か……」
「……本当に?」
「えっ?」
「信じ、られないよ……」
「遥……?」
「だって。私も……蒼くんのこと、ずっと…好きだった、から……っ……」
その言葉に。今度は蒼が瞳を大きく見開き、愕然とした。
だが、ぽろぽろと涙を零し続ける遥に「もう泣くなよ」と慰めの言葉を掛ける。
「俺……。遥はユウのことが好きなんだと思ってた」
不意にポツリ……と落とした呟きに遥は顔を上げると、泣き濡れた瞳のまま複雑そうな顔をした。
「ユウくんのことも、もちろん好きだよ。でも、それは友達の『好き』だよ」
「ごめん。疑ってる訳じゃないんだ。ただ、驚いただけで……」
「うん……」
思わず見つめ合うと。
互いに恥ずかしさが募り、蒼は空を仰ぎ、遥は俯いてしまう。
そんな中、蒼はふと思い出したように制服のポケットから何かを取り出すと遥の前へと差し出した。
「これ……」
「?」
「遥にあげる」
目の前に差し出されたそれは小さな封筒だった。
「開けても、いい?」
「うん」
遥は片手で涙を拭うと、そっとその封筒の中身を取り出した。
すると、中に入っていたのは……。
(ペチュニアの……押し花!?)
それは今までに貰ったしおりとは、また別の色の花で作られていた。
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