動き始めた時間

第23話

陽が陰り、すっかり薄暗くなってきた公園内。

ベンチに腰掛けたまま、遥は蒼から受け取った手紙の封を膝上に乗せた鞄の上でそっと開いた。


体調が思わしくないのに、今日の……この日の為にユウくんが書いてくれたという手紙。

純粋に、その気持ちが嬉しかった。


でも……。ユウくんは、もういない。


そう思うと、何だか手紙を読むのが少しだけ怖くなった。

蒼くんから話を聞いても未だに実感が湧かなくて。

私の中のユウくんは、引越すのだと聞いた7年前に別れたあの時の元気な姿のままだ。

その後、翌年・翌々年の誕生日に貰った手紙を通してのユウくんも、別れた時のイメージと何も変わらないままだった。


だけど……。


今、この手紙を読んでしまったら……。


私の中でのユウくんの止まっていた時間は、きっと動き出してしまうのだろう。


そして……。


もう、会うことは叶わない。

その現実を思い知らされてしまうのが何より……怖い。


思わず緊張で手が震えそうになるが、ふと隣を見上げると蒼くんが静かに見守っていてくれて。

それだけで自然と心が落ち着いてゆくのを感じた。



遥は小さく深呼吸をひとつだけすると、数枚重なって折り畳まれている便箋びんせんをゆっくりと広げた。

そこには懐かしい筆跡で、だが以前貰った手紙よりも幾らか丁寧な文字でしっかりとボールペンで書かれている。

周囲はかなり暗くなってきていたが、ベンチ横には街灯があるの難なく読むことが出来そうだ。




『ハルカへ』


『今、この手紙をハルカが読んでるということは、きっとオレは約束を守ることができなかったんだろうな。ごめんな、ハルカ。』


そんな書き出しから始まり、自分の病気のこと。実は引っ越しと偽り入院していたこと。それらに対しての謝罪などがつらつらと書かれていた。


(ユウくんが謝るようなことじゃないのに……)


そう思いながらも続きを読んでゆく。


『そういえば、ハルカをおよめさんにするって言ったの、おぼえてるか?結局それも実現することはできなかったけど、ただの冗談で言ったんじゃないことだけは信じてほしい。オレは本気だったんだよ。ずっとハルカのことが、好きだった。』


(ユウくん……)


そこまで読んで胸が締め付けられる思いがしたが、次の『まぁ、ハルカには他に好きな人がいたの……知ってるけどさ。』との言葉に瞳を大きくさせた。


『ハルカはアオのことが好きだったんだろ?オレは知ってたよ。ずっと、ハルカを見てたからさ。』


そう続く言葉に驚きを隠せない。


(………っ……)



遥は思わず咄嗟に隣に座る蒼を見上げたが、蒼は組んだ膝の上に頬杖をつき、ボーっと遠くを眺めているだけで、こちらの様子には気付いていないようだった。

何か考え事でもしているのだろうか。


(待っててくれる?……なんて、ワガママ言っちゃったかな……)


それでも、隣にいてくれていることが何より嬉しい。


ドキドキしてしまう鼓動を落ち着かせるように遥は小さく息を吐くと、再び視線を手紙へと戻した。





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