第21話

「もしかして……そのことを根に持ってたり、する?」


ワザと悪戯っぽく見上げて来るユウに。


「別に」


俺はふい……と横を向いた。

そんな俺のつれない反応に、ユウは楽しそうに笑い声を上げる。


「オレとしては、さ……。いっつも二人で花の話とかで盛り上がって、二人の世界作ってるからさ。嫉妬してた位なんだぜ?遥、花が好きだろ?でも、オレは蒼みたいに花のこととか全然分かんねぇし」


「…………」


「そこにちょっと割り込んだつもりがさ、蒼は普通に何でも譲ってくれちゃうからさ。まぁ……オレはオレでそれに甘えちゃってたんだし、エラそうなことは言えないんだけど」


そこまで言うと、ユウは気だるげにそっと目を閉じた。


「でもさ、もうエンリョなんかすんなよ。お前はお前だよ、蒼……」


「ユウ……」


唯一元気のある光の宿った瞳を閉じてしまっているユウは、顔色が白く何処か生気が感じられなくて、見ていていたたまれなくなる。

自然と顔をしかめかけた俺をユウの瞳が再び捉えた。


「遥のこと、頼むな。アイツ寂しがり屋だからさ」


それだけ言うと、「なーんて。オレがエラそうに言えた義理じゃないけどな」……なんて小さく笑った。

だけど、それではまるでユウがいなくなること前提の話のようで俺は怒りを露わにした。


「勝手に『頼む』とか言うな!この手紙だって自分でちゃんと渡しに行けよなっ。俺は預かるだけだからなっ!」


そう言って、その時は病室を後にしたのだった。


それからも何度もユウの病室へは足を運んだけれど、預かった手紙のことについては、お互いに話題に出すようなことはなかった。



本当は分かっているのだ。


容体を考えてみれば、ユウが自分の時間をゆっくり使って自由に手紙を書けたのは、きっとあの頃が最後だったから。


ユウは分かっていたんだ。自分の限界を。残された時間を……。


でも、俺は素直にそれを認めたくなかった。

そんな俺の気持ちさえも、ユウは分かっていたんだろうけれど。



俺は肩から掛けていたバッグから封筒を取り出すと、それを遥の前へと差し出した。


「これは……?」


差し出されるままにそれを受け取りながらも、遥は不思議そうに首を傾げる。


「ユウから預かったんだ。流石に誕生日プレゼントというには……何て言うか、重いかもしれないけど。でも、まだあいつが比較的元気な時に遥の為に一生懸命書いていたものだから……。受け取って貰えると嬉しい」

「ユウくんから……」


遥はこくりと頷くと、「ありがとう」と呟いた。



遥のことを思えば、本当は折角の誕生日に悲しい思いなどさせたくはないし、何よりユウのことは知らない方が幸せだと思っていた。けれど、これを書いたユウの気持ちを思えば……。


(結局、俺から渡すしかないじゃないか……)


『遥のこと、頼むな』


そう言って微笑んだユウの顔が頭をぎる。


手紙を預かってからずっと、どこか気を張って重苦しかった気持ちが、ほんの少しだけ楽になったような……。

肩の荷が下りた気持ちがした。



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