第9話
私は、そんな蒼くんを見ているのが好きだった。
そう。私は蒼くんのことが好きだった……んだと思う。
ユウくんのことも好きだったけど、蒼くんに対する『好き』は友達の好きとは少し違う気がするのだ。
今でも当時のことを思い出すだけでどこか胸が痛むような、
それは多分、もう蒼くんのあの笑顔を見ることは叶わないと知っているから。
笑顔を思い出すだけで、切なくて。
蒼くんが公園へ姿を見せなくなった後、偶然通りでばったり会った時の、あのバツの悪そうな顔が頭から離れなくて。
無言で走り去っていった、その後ろ姿が忘れられなくて……。
(こんな想い……。今更なのにな……)
結局、蒼くんにペチュニアの花を貰うことはなかった。
あの後。
ユウくんが
「二人で何してんだ?ハルカ、何かうれしそうだな?いいことでもあったのか?」
「うん。あのね、アオくんがお花くれるっていうのっ」
私は嬉しくて、それを隠すことなく言った。すると、
「何だ?ハルカは花がほしいのか?それなら、オレがプレゼントしてやるよっ」
「えっ?ユウくんが?でも……」
「なっアオ?オレがハルカにあげたっていいよなっ?」
そう確認を取るように、ユウくんは私の後ろで黙って耳を傾けていた蒼くんに声を掛けた。
すると、蒼くんは一度だけ私を見て。
「うん」
小さく頷くと。
「よかったね、ハルカ」
僅かに微笑んだのだった。
その後、誕生日にユウくんに貰った花はペチュニアではなく別の花だったけれど。
(でも、このしおりを送ってきてくれたってことは、後々蒼くんに聞いたのかな?私がこの花を好きだって……)
四年分の計四枚のしおりは、全てがペチュニアの押し花で。四枚とも色の違う花で作られたものだった。
私が色々なペチュニアを見たいって言ったのを蒼くんは覚えていてくれたのだろうか?
それでも、その役目はユウくんに委ねられたのだろうけれど。
『ハルカのたんじょうびに、この花をプレゼントするよ』
きっと、蒼くんにとっては会話の流れから何となく出た、思い付きの言葉でしかなかったのだろう。
ただ、それだけのこと。
他の封筒に入っている四枚全てのしおりを手に取ると、そっと撫でるようにそれに触れた。
(ごめんね、ユウくん。ユウくんが折角プレゼントしてくれたのに……)
それなのに、いつだってこのしおりを眺めていれば蒼くんを思い出してしまうから。
だから、ずっと封に入れたまま仕舞い込んでいた。
「でも……お花に罪はないよね」
遥は、そのしおりを机の上のボードの上に立てかけるように並べた。
カラフルな花は、見ているだけで
蒼くん、私ね。
私もペチュニアについて少し調べてみたこと、あるんだ。
ペチュニアの花言葉は『あなたと一緒なら心がやわらぐ』とか『心のやすらぎ』とかの意味があるんだって。
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