第3話

声を掛けてきてくれたのが、ユウくんだった。

いつも元気で人懐ひとなつっこい性格で。誰とでもすぐに仲良くなれちゃうタイプで。

何でも器用に出来て運動神経抜群。

どんな遊びをしても誰もがユウくんにかなうことはなかった。


そんなユウくんと、いつも一緒にいたのが蒼くんだった。


蒼くんはユウくんとは違って大人しい男の子で。

何でもそれなりに出来るけど、あまり人と争うことを好まない穏やかな性格だった。

それに何より印象的だったのは、意外にも花のことに詳しい、自分の周囲ではあまり見掛けないタイプの男の子だったことだ。

子どもの頃から花が好きだった私は、公園内に咲いている花や木々をよく眺めたりしていたのだが、蒼くんはそれらの名前も良く知っていて様々なことを教えてくれた。

蒼くんと一緒にいると、他の男の子達とは違う、どこかホッとした気持ちになったのを覚えている。




駅から自宅へと向かう道のり。

先を歩いている、その蒼くんの後ろ姿を遠く見つめる。


思い出の中の彼とは違う、スラリとした長身。

もう過去の面影おもかげなど、その後ろ姿には残ってはいない。


時が過ぎれば、人は成長して変わっていく。

それは、この世界では普通のことだ。


どんなに忘れたくない綺麗な思い出も。

失くしたくない大切な過去も。


全てが遠い記憶の中の、ヒトカケラでしかない。



(もう、あの頃のように話をすることなんて……ないんだろうな)


蒼くんと口をきいたのは、もう随分と前のことになる。

それも挨拶あいさつを少しわした程度で、会話なんてもう何年もしていない。


いつまでも無邪気な子どもの頃のままでは、いられないこと位分かっているけれど。

でも、それこそがユウくんと会うことを不安にさせている一因でもあった。


大好きだった大切な友達。

その関係が変わってしまうのが怖い。


失くしたくないのだ。


ユウくんとも蒼くんと同じように距離が出来て、友達でさえいられなくなったら……と思うと、どうしても怖気おじけづいてしまう自分がいる。



(でも、蒼くんはきっと……。私のことが嫌いになったんだよね……)


いつだって三人で、ずっと一緒にいたのに。

ある時から蒼くんは公園に姿を見せなくなった。

それは、まだユウくんが引っ越しする少し前のことだ。


最初は、単に用事が出来て公園に遊びに来られないだけなのだと思っていたのだけれど、後々そうでないことが分かってしまった。

他の場所で偶然出会った時、一瞬彼はバツの悪そうな表情を見せると、私を避けるようにその場から走り去って行ったのだ。


本当は聞きたかった。


私、何か蒼くんにしちゃったのかな?

何か気に障るようなことしたのかな?……って。


でも、当時はショックが大き過ぎて。

それ以来、会う機会も殆どなく。結局何も聞けずに話せずにいる。


(せめて中学で同じクラスになれれば、まだ機会もあったのかも知れないけど……)


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