淡い思い出

第1話

「へぇー。素敵な話じゃない。それではるかは、その男の子との再会を楽しみにしてるんだ?」



学校帰りのファストフード店で、ドリンクとポテトでお茶しながら友人のともちゃんと二人、何気ない話に花を咲かす。


朋ちゃんとは高校に入ってから知り合って、まだ一カ月ちょっとだけど妙に気が合い、最近では放課後時間があればこうして寄り道して話すのが日課となっていた。

それで今日は、たまたま恋愛の話題になって。

然程さほど語るネタもない自分の、唯一と言っていい幼い頃の思い出話をしたのだけど。


「本当のところ……よく、分からないんだ」

「ん?どういう意味?その子に別に会いたくないってこと?」


ポテトに伸ばした手を一瞬止めながら朋ちゃんが首を傾げた。


「ううん、会いたくないって訳じゃないんだけど……。随分と昔のことだし、今更会ってもどうしていいか迷うっていうか……」


アイスティに浮かぶ氷をストローで何気なくつつきながら考えていると、「あー、確かにね」と相槌あいづちが返ってくる。


「もう7年?って言ったっけ?……っていうと、9歳……?小学三年生くらいかぁ。流石に色々変わっちゃってるだろうねー。お互いにさ」

「そうだよね……」


そんな約束をしたことさえ、もう忘れているかも知れない。

もしも、約束を覚えていたとして。

本当に彼が約束の場所に現れたとしても、今の自分を見てどう思うんだろう。

それを考えると何だか不安で……。


別に、本気で恋愛的な進展を期待している訳じゃない。

既に過去の話であって、もうそんな気持ちは微塵みじんもないかも知れない。


だけど、思い出は綺麗きれいはかないものだから。


それが壊れてしまうのは嫌だし、もしも今の……現実を否定されてしまったらと思うと怖いのだ。



「でもさ。遥自身は?その子のこと好きだったの?」

「それも、よく分からないんだ」

「分からない?」

「うん。友達としては好きだったよ。遊ぶのも楽しかったし。でも恋愛感情があったかって言われるとね。『お嫁さんにする』って言われた時は嬉しかったけど、単に花嫁そのものにあこがれてただけだったような……」

「あー分かる!やっぱさ、憧れるよね。花嫁姿っ」

「ねっ。朋ちゃんは和装?洋装?どっち派?」

「そりゃー断然、洋装でしょう!」

「だよねっ!私もっ」

「でしょ!やっぱりドレス一度は着たいよねー。純白のやつ」

「ねっ。二度も着ることがあったら、それはそれで困っちゃうけどね」

「あはは。それ、シャレになんないからっ」


二人して笑い合う。


そうして、そのまま話題は別の方向へとズレてしまったのだけれど。



実は、その約束の日は……。

あと一週間後にまで迫っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る