哀れな生け贄(2)

「……ブロマイド??」


冬樹は訳が分からないという顔をした。


「そっ。ブロマイド。聞いた話だと、冬樹チャンのは大層人気らしいよっ♪」


まるで良かったね♪と言わんばかりの長瀬に。


「……嬉しくも何ともない」


冬樹が嫌そうな顔を隠さずに呟いた。


「とりあえず、これは没収な?」


冬樹が冷たい視線を送りながら力に言った。


「えっ?ちょっ……待っ」


思わず名残なごり惜しそうに伸ばして来た力の手を無情にも冬樹が払い落とす。


「……これ以外には流石さすがにもうないよな?」

「あっああ。うんっ、そう。コレだけだっ。コレだけっ」


慌てて取りつくろうように返事をする力の様子に。


「……何か怪しい……」


冬樹は眼を光らせた。


その時、ドキリとした力が咄嗟とっさに制服のポケット部分を押さえるような手の動きをしたのを冬樹は見逃さなかった。


「……そこにまだあるのか?」

「ヒィッ!」


ほとんど『ヘビに睨まれたカエル』状態である。

結局、その他に持っていた写真も没収され、力は計4枚の冬樹の写真を取り上げられてしまった。



そんな様子を横で見ていた雅耶と長瀬は、若干じゃっかん顔を引きつらせつつも素知らぬふりをしていた。


あわれれ、神岡……。だが、神岡が持ってた写真は俺は直接関係ないもんね。だから問題ナッシングだし)


もし問い詰められてもシラを切れる自信もある。

長瀬は力のフォローをする気など毛頭なかった。


雅耶はというと、長瀬に売りつけられたとはいえ自分も同じ物を持っている手前、冬樹(夏樹)に申し訳ないというか立場がなかったのだが。

何とも落ち着かない気持ちでいるものの、写真は家に大切にしまってあるし、今ここで自分がそれを暴露する気は更々ない。


(……っていうか、今のこの状況で言えないだろっ。夏樹に軽蔑されたくないし…)


そう、二人とも我関せずを貫くつもりだ。



「こんなの一体いつの間に撮ったんだろ……。ブロマイドってそんなに普通に出回ってるものなのか?オレ聞いたこともなかったけど……。これって普通に駄目なヤツだろ」


力から奪った写真をげんなりしながら見ている冬樹に。


「ホントだよねー。だけど神岡みたいなヤツがいるから、こーいうのがなくならずに続いていくのかもねぇ。買う奴の顔が見たいよ、俺は」


ちゃっかり調子の良いことを言う長瀬に。


雅耶は、冬樹から見えない位置で長瀬に肘鉄ひじてつを食らわせたのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る