哀れな生け贄(1)
4時限目の終了を知らせるチャイムが鳴り響くと、同時に各教室からは生徒たちが廊下へ次々と溢れ出てくる。
その大半が学食や売店へと流れて行くのだ。
「冬樹、飯行こうぜっ!」
雅耶と長瀬が教室の後ろの扉前から、声を掛けてくる。
それに手を上げて応えると、冬樹も席を立った。
同様に
……と、不意に力のポケットから何かがヒラリと落ちた。
「?」
冬樹の足元へと落ちたそれを拾いながら「おい力、何か落としたぞ」と言いかけたところで、それが写真であることに気付く。
(何の写真だ……?)
ペラリ……とめくる瞬間、「あっ!」力の慌てる声が頭上で聞こえた。
「え?……これ、なに……」
冬樹は固まってしまった。
「あっあのー……えっと……っ……」
わたわたと落ち着かない様子でいる力。
立ち止まっている冬樹たちに気付いた雅耶と長瀬も何事かと戻ってくる。
「どうした?何かあったのか?」
「冬樹チャン、何持って……」るの?と続くところで、その手にあるものを理解して長瀬は顔を引きつらせた。
その手にあったもの。それは……。
今、ここ成蘭高等学校内で大人気のイチオシブロマイド。
冬樹の隠し撮り写真だった。
「これ……。こんなの、何でお前が持ってるんだ?」
冬樹が無表情で力に質問をした。
手には、その写真を持って。
それは冬樹が保健室で清香と話をしている中で見せた笑顔を撮られた写真で、以前長瀬が雅耶に売り付けた中の一枚と同じものだった。
「こんなの」と言って差し出したその写真に、力が何気なく手を伸ばそうとすると、冬樹がサッとそれを引っ込める。
「……答えろ」
冬樹は大層ご立腹のようである。
面と向かって
そんな中、雅耶は長瀬にこっそりと耳打ちした。
「なぁ、お前もしかして力にまであの写真売ったのかっ?」
信じられないという表情で見てくる親友に。
「まさか。断じて俺は雅耶にしか流してないぞ。写真部と繋がりあるって言ったって、俺は売り子でも何でもないし。でも、神岡の奴はどこで手に入れたんだろ?そもそも、この学校のブロマイドの存在を知ってるなんて
長瀬が変に感心しながら言った。
その時、冬樹の追求に白旗をあげた力が、ぽつぽつと話し出した。
「これは、その……写真部の二年生に貰ったんだ。こないだ、ちょっとした縁で知り合ってさ。どうしてもくれるって言うから……その……な?」
いまいちハッキリしない力の言い分に。
不快感をそのままに、次に冬樹は長瀬に話を振ってきた。
「写真部って……。こんなの撮ったりするものなのか?これって隠し撮りだろ?」
「えっ?あー、まあ。この学校のある意味伝統になってるらしいんだけど……。人気のある生徒のブロマイドを写真部が売ってるんだよね」
長瀬が思いのほか嬉しそうに説明をする。
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