第8話
「雅耶が夏樹ちゃんのこと好きなのはミエミエだから、夏樹ちゃんはどうなのかなーって思っていたの」
(み…みえみえ…?)
笑顔の清香の言葉に耳を傾けながらも、夏樹は思いを巡らせた。
実際、雅耶は自分のことを好きだと言ってくれた。
昔から、ずっと…。夏樹が事故で行方不明になってしまっても、その気持ちを変わらず想い続けていてくれた、と。
そして雅耶は、オレが冬樹を演じていることに途中で気付いても、そんなオレを認めてくれて…そして、いつだって守ってくれていた。
そんな雅耶に、オレは本当に感謝の気持ちしかなくて。
その優しさが嬉しくて、切なくて…。
この気持ちを何て言ったらいいのかは分からないけど、とにかく『大切』なのだと思っていた。
「オレ…雅耶のこと、好きだよ。すごく、大切だって思ってる…。でも、付き合うってどういうことなのかイマイチよく分からなくて…」
夏樹は自分の思うままを口にした。
すると、途端にツッコミが入る。
「…夏樹ちゃん、一人称が『オレ』に戻ってる…」
「あっ!違う!『ワタシ』だった…」
つい、これまでの癖が出てしまい慌てて訂正をする。
一生懸命『私』という言葉を頭に叩き込んでいる筈なのに、つい…ふとした拍子に、癖で『オレ』と言ってしまうのだ。
「…駄目だ、つい癖で…」
思わず頭を抱えている夏樹に、清香はクスッ…と笑みをこぼすと、「大丈夫。すぐ慣れるわよ」そう言って、慰めるように肩をポンポンと叩いてくれる。
「でも、そうね…。雅耶とのことは、そんなに特別意識する必要はないのかもね。夏樹ちゃん自身が感じてるその気持ちを大切にしていけば良いんだと思うな」
そう言って微笑む清香に。
雅耶への気持ちを他の人に話したことなどなかった夏樹は、何だか妙な照れくささを感じながらも、そんな温かな言葉が嬉しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます