第2話

「む…ムリ…。こんな短いの、有り得ないよっ」



真新しい制服に身を包みながら、スカートの丈を気にする少女。

その様子ははたから見れば初々ういういしく、とても愛らしい。


その制服は私立女子高の制服で、地元では可愛いと評判のデザインだった。

濃紺のブレザーは、縁に白いラインが入っていて、左胸ポケットにはお洒落なエンブレム入り。膝上より若干短めのプリーツスカートは、赤ベースのチェック柄で、同系色のリボンが襟元を飾っている。


ある意味、とても女の子っぽい制服ではあるが、その目の前の少女に、とても似合っていると清香は思った。


「そう?すごく似合ってるわよ?」


思うままに感想を口にするが、少女はスカートの違和感が消えないようだ。


「何か、足がスース―するっ」


そんなことを言って恥らっている様子は、まるで男子に女装させてスカートを穿かせた時の反応と同じだと、清香は心の中で苦笑した。



浅木清香あさぎ きよかは、私立成蘭高等学校の養護教諭…いわゆる保健の先生をしている。


成蘭高校は男子校なのだが、学祭の時に何かの企画で女装している男子生徒を多々見たことがあり、その時の生徒達の反応が、まさにこんな感じだった。


だが、それは仕方のないことなのかも…と、清香は思う。


何故なら…この目の前の少女は、訳あって小学二年生の頃から八年間、ずっと男として過ごして来たのだ。



「それを着て明日から新しい学校へ通うのね…。大丈夫。すぐ慣れるわよっ。もう正体を偽る必要はないんだもの。そのままの貴方で良いのよ。頑張ってね!」

「清香先生…。…うん、ありがとう…」


少女は、はにかみながらも笑顔を浮かべた。


そう、清香のことを『先生』と呼ぶ、この少女…野崎夏樹のざき なつきは、つい先日までその成蘭高校の生徒だったのである。


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