第80話

「いい加減、卑怯ひきょう真似マネはやめろよ。アンタ達だってチクられて困る程度には、悪いことしてる自覚はあるんだろ?」


冬樹は毅然きぜんとした態度で言った。

だが、三人は下卑げひた笑いを浮かべて近付いて来る。


「何のこと言ってんだか分からねェなぁ?…なあ西田?俺達はこんなに仲良しなのになぁ?」


そう言って、一人の男が無理やり肩を組むように首元に腕を絡ませ、西田を引き寄せた。


「うっ…ぐ…」


締められて苦しそうな西田のうめきに、冬樹が止めに入ろうとするが、


「おっと!それ以上動くなよっ。動くとコイツの為にならないぜェ」


そう言って、まるで人質だというように西田を盾にしてけん制した。


「………」

「正義感の強いおチビちゃんにはキツイだろ?お前が動いたら西田が苦しい思いをするんだぞ?…分かったら大人しくしてろよ」


そう言われて一瞬動くのを迷った冬樹は、もう一人の男に後ろ手に掴まれ、締め上げられてしまった。


「くっ…下衆ゲスがっ…」


そんな呟きも、この状況では相手を喜ばせる言葉でしかない。

そんな冬樹の様子に、男達は声を上げて笑った。


「お前、今じゃこの学校で結構な有名人みたいじゃねぇか。生意気な事この上ないなァ」

「だからって調子に乗ってんじゃねぇぞ」


三人の中で一番腕の立つゴツイ男は、不敵な笑みを浮かべると自由の利かない冬樹の前へと歩み寄り、


「…今までの借り、返してもらうぜっ」


そう言って、思い切り振りかぶった。


その瞬間。


冬樹は後ろ手に締め上げられたまま、弾みを付けて目の前の男のアゴを高く蹴り上げた。


「うぐっ!」


油断していたゴツイ男は蹴りを食らい、後方によろめきはしたが、すぐに体勢を戻して「この野郎…」と、怒りをあらわにした。


(やっぱり、手を封じられたままじゃ蹴りの勢いが足りないかっ…)


「ナメた真似しやがってっ」

「くっ…」


仲間を攻撃されたことで、冬樹を締め上げている腕の力も強くなり、冬樹は顔をしかめた。

ゴツイ男は逆上すると、勢いよくパンチを繰り出してくる。


(ダメだっ避けられないっ!)


食らうのを覚悟して目をつぶったその時。

バチンッ!…という音と共に、


「何っ!!」


…という、男達の動揺した声が聞こえてきた。



(な…に…?)


来るはずの衝撃がなく、不思議に思った冬樹が恐る恐る目を開けると…。

そこには…。


「まさ…や…?」


雅耶が目の前に立ちはだかり、男のパンチを受け止めていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る