第2話

一方の机に歩み寄り、横に置かれている赤いランドセルを両手に取る。

これは昔、自分が使っていたものだった。

それは何だか懐かしい感触で、けれど今の自分の手には妙に小さく感じられた。

暑さで少し汗ばんだ掌にぴったりと吸い付いてくるようだ。


思わず懐かしさに浸っていると、不意に遠くで人の声がしたような気がして、ふと我に返る。

確かに微かだが人の声がする。

何を言っているのか聞き取ろうと耳を傾けながら、手に持っていたランドセルを元の位置に丁寧に戻した。


初めは微かでしかなかったその声は、だんだんはっきりと耳に届いてきた。

どうやらこちらの方へ近付いて来るようだ。

そして、その声の主が誰なのかが分かったと同時に、初めて自分の名前が呼ばれているという事に気が付いた。


それは、自分が良く知っている…忘れる筈もない優しい声…。


…お母さん。


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