第17話

* * *


 

「ところでさ、ちーちゃんってさー、俺の下の名前知ってたんだ」


 羽鳥の宣言通り、いっぱい教えられたあと、ベッドの隣で羽鳥が唐突に名前の話をした。

「……ぁ、当たり前、だろ、お前こそ、知ってるのかよ。俺の名前、ちーじゃないぞ?」

「ん、もちろん、千影くんだろ」


 甘い吐息とともに耳元で呼ばれた名前に、びくりと反応を返してしまう。


「ッ、なに、まだする? 全然余裕だけど」

「やったら、死ぬ」

「……なぁ高瀬、推しと、セックスした感想は? 幻滅した?」


 そう、羽鳥に冗談交じりの声で訊かれた。


「してないよ。写真も上手だけど、羽鳥は、セックスも上手だな」

 そう素直な感想を言うと、羽鳥が照れて赤い顔をした。

 その顔が、あまりにも可愛かったから、近くにあった羽鳥のカメラを手にとり、ベッドの上から思わずシャッターを切った。ダイヤルをオートにして撮ったから、初心者でも何かしらは写っているだろう。

 羽鳥の、あのはにかむような笑顔が写っていたらいいなと思った。


「お前、何、撮ってんだよ」

「羽鳥が、可愛かったから。なんか、お前の気持ち、今ちょっと分かった。俺には、羽鳥みたいに写真で気持ちは撮れないけど。――写真の中で、お前のこと、独り占めにしたい、みたいな?」

 カメラを奪われて、今度は羽鳥が高瀬に向けてシャッターを切った。


「いい顔」

 その音に、羽鳥の声に煽られた。


「……ハメ撮りプレイのリクエストしたわけじゃないんだけどな」

「もう一回だけ」

 カメラを枕元に置いて、頬にキスされた。


「あのなぁ、俺、初心者なんだから、優しくしろよ」

「初心者はセックスしながら、恋人の写真撮ったりしないな? ――高瀬、そんなに写真撮ってる俺が好き?」

「そんなの、もちろん」


 返事の代わりにキスをした。

 羽鳥が、あの日部室棟で高瀬の写真を撮った日を、自分もいま同じように追体験出来た気がした。

 相手のことを知ったら、もっと知りたくなる。もっと好きになる。

 できることなら、その気持ちも残せればいいのに。この先、高瀬はもっと羽鳥のことを好きになると思う。

 心の中で、さっきの写真にタイトルをつけていた。


 ――明日、もっと、好きになる人。


 羽鳥には秘密だけど。お願いしたら一枚焼いてくれるだろうか?

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