第34話

「アンリ様、それでは私はそろそろ…」


メイとアモンは船の見張りのために席を外して、甲板には私とタオの2人だけになった。


「船に乗ると、あの時のこと思い出しちゃいます」


潮風に吹かれながら、タオがぽつりと言った。


アモンとメイは、この場にはいない。2人は乗組員と共に警備に入っていたからだ。


甲板の手摺りに触れていたアンリは、


「あの時?」


と首をかしげながら訊いた。


「…アンリ様とマックスさんが、付き合い始めた頃ですよぅ」

「あ!あれは…っ」


明らかに慌てたアンリを見て、タオはくすりと笑った。


「ふふっ。わかってます」


…タオがこんな風に言うなんて。


アンリは顔が熱くなっているのを感じた。


「…ただ、あの時の私には“ゆとり”がなかったんです」


肘を手摺りに乗せて、身を預けるように、タオは広がる海を見つめてそのまま黙ってしまった。


確かにあの頃のタオは、今とは違っていたわ。


アンリも海を見つめた。それを見ているのではなく、旅をしていた頃に眺めていた海を。

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