前編

第56話

『クラウド…』


懐かしい、ふわりとした声に呼ばれてクラウドは振り返った。


忘れたりなんてしてない。


――エアリスの声だ。


目を開けて、彼女の姿をとらえる。


広い空が見渡せる、そんな場所に彼女は立っていた。


『クラウド、来てくれるかな…?』


……何、言ってるんだよ?

オレはここにいるだろう?


エアリスに歩み寄ろうとする。しかし、その距離は縮まない。

声も届かない。

彼女は背を向けたまま、気づいてはいない。


――顔を見せてくれ…!


なぁ、エアリスっ!



だが、その願いは届かなかった。


エアリス


エアリス…



彼女に触れたくて、手を伸ばした。


「…あ…」


その先にはエアリスではなく、部屋の電気があった。


クラウドは夢だったと理解した。

けれど、ただの夢だと片付けることはできなかった。


クラウドは体を起こし、少し固めのマットに触れ、フゥとため息をついた。


『クラウド、来てくれるかな…?』


夢で聞いた言葉を思い出していた。


あの言葉…。


エアリスが向いていた先には、広い空と少しだが海が見えていた。


しかし、夢に出てきた場所に、覚えがなかった。


「…くそっ」


よく思い出せ!行ったことあるはずなんだ!


額を何度も手の平で叩いたが、思い出せない。

そんな自分にイラついた。


エアリス…、あの場所にいるんだろうか…?


ただの夢ではない気がした。彼女が本当にあの場所にいるのではないかと、そう思えた。

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