第31話

「どうしよう…」


誰も居ないはずの図書室で一つの影が動いた。


机に置いてある物を眺めながら困っているようであった。


キーンコーンカーンコーン。学園内のチャイムが鳴る。これは下校時間を伝えるものだ。


「いけない!」


生徒は慌てて席を立った。けれど足は動かなかった。再び席に座ってしまう。


渡すだけ。渡すだけなのにそれができない。


「誰かいるのか?」


「きゃっ!?」


唐突に図書室のドアが開けられて、図書室にいた生徒は驚き、机の物は後ろ手に隠した。


「なんだ、ヒルダまだ残っていたのか?」


「せ…先輩…」


チャンスが突然やってきた。でも、心の準備はまったくで…!


ここに来るなんて予想してなかったです。


「帰らないのか?」


「いえ、そろそろ帰ろうとしていたところです…」


言わなきゃ…言わなきゃ…


後ろ手に隠した物を前に出そうと思っても動けない。


「…どうした?」


「あの…あの」


ちょうど目に入った本を取り、その上に隠していた物――手帳のような物を乗せて、


「先輩!これを…先輩に薦めようと…思って」


ここから逃げ出したいくらい。熱い…顔が…。


「帰ったらゆっくり見させてもらおう」


手帳のような物を少し気に留めたようでしたが、特に触れず先輩は鞄の中に入れました。


「はい…楽しんでもらえたら嬉しいです」






おわり。

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