第2話

世界は、崩壊の危機に晒されていた。








この世界の均衡を保ち、『魔』から世界を守れる唯一無二だと言われる存在。



それが『光の神子みこ』。



存在そのものが魔を退け、天候を司り、その祈りこそがこの世界を守り、民を守ると言われている。



故に神子は、その生涯を世界と民の為に捧げるのだ。



「神子様が居なければ、騎士など無意味だ」



苦く呟く騎士の足元には、剣傷により体液を撒き散らし、屍となった赤い目の異形が数体転がっていた。



本来、この世界に踏み入る事さえままならない筈の魔物。



それらがこうして暗躍出来るのは、光の神子不在ゆえに他ならない。



空は暗雲に覆われ、滅多に太陽を拝めなくなった世界には異形の魔物が溢れ出し。



人々は長きに渡り、恐怖と混乱に陥っている。



「この森はもう駄目だ。魔物どもに占拠されている。近付かない方が良い」



光の神子は時に男性であり、時に女性でもあった。



王の血脈に生まれ、金色に輝く瞳を持って生まれる。



元来王の血脈は瞳の色が薄い者が多いが、金色の目を持つ光の神子はいつの世も常に一人だけ存在していた。



最も貴い身分であり、最も尊い畏敬の存在。



光の神子の死期が近付く頃、或いは逝去後数日間のうちには新たな光の神子が誕生し、常にこの世の平和は保たれてきた。



だのに。



この60年余り、光の神子は生まれていない。



この様な事態は史実にも一度として記されておらず、民衆のみならず王族、果ては騎士団員でさえもが不安を募らせ。



日増しに士気を削がれてゆく騎士達を嘲笑うかの様に、異形の魔物達は我が物顔で人間界へ蔓延る様になっていた。



「この森も落ちましたか」



「森だけじゃない。街も村も、人が安心して暮らせる場所などもうどこにもない」



先程斬った魔物の赤黒い体液を払う様に、ザッと振るった剣を鞘に収める。



「神子様が不在など有り得ん。何処かに隠れ住んでいるやも知れない」



余りあってはならない事ではあるが、王族が婚外子を成してしまう事はままある。



もしくは国外や貴族以外に嫁いだ王族女性の子や、貴族の籍からは外れ平民として暮らす王の血脈の元に光の神子が突然生まれる可能性も無くはない。



ひっそりと生まれた子がそうであれば、我が子可愛さに光の神子である事を隠す親がいるかもしれない。



何せ光の神子ともなれば、穢れに触れぬ様に結界の張り巡らされた神殿の一角いっかくへ軟禁されてしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る